EU指令とわが国の消費者保護法制の動き

弁護士村本 武志

 いくつかの消費者保護に関する指令の改正としての2005年の消費者・事業者間の「不公正な取引慣行に関するEU指令」(Unfair Commercial Practices Directive)採択1以降、EU域内で、事業者・消費者間における不公正取引規制の国内法化作業が進められている2
 欧州における消費者取引に関する消費者保護法制は、各国でその沿革や形式を異にする。ドイツ・オーストラリアの消費者保護法制は、事業者間における公正取引法制が発展したもの、フランスやスペインでは、独自の消費者保護法制を発達させつつ、公正取引法制を間接的に消費者の利益保護に反映させているもの、デンマークやスウェーデンは、公正取引・消費者保護の両規制を一つに取り込んだものとして整理されている。偏見を許していただければ、わが国の法制は、上記中のフランス・スペイン型に属すると思われる。このような中での法統合であるから、指令起草者の努力は並大抵のものではなかったに違いない3。ところで、不公正取引慣行に関するEU指令の前文に、金融サービスや不動産取引について触れるところがある。これら取引の複雑性、固有の高リスク性から、各国において、販売者に対して積極的な開示・情報提供義務など詳細な販売要件の整備を求めている。とりわけ金融サービス取引分野においてこれが強調される4。この求めを、今般改正された金融商品取引法やそれに先立つ金融商品販売法の制定の動きに重ね合わると実に興味深い。
 ところで、EUでは現在、消費者クレジットに関する1987年EC指令の廃止し1993年指令を修正する指令案の検討作業を進めている。英国ではこの指令案を念頭においての改正法を2006年3月に可決した5。同改正法でも、販売者とクレジット業者の共同責任を規定した75条は維持され、格別それを廃止すべきとの声も事業者側から上がってはいない。2006年3月には、主にクレジットカードの海外利用に同条の適用の可否をめぐって争われた訴訟でそれを消極に解した原審判決を覆した控訴審判決6が下り、近く上告審判決が予定されている。
 信販業者が販売業者の不始末について共同責任を負うとする規定の存在は、クレジットカード利用海外利用の場合にも適用されるとの裁判所での法解釈とも相俟って、英国における消費者のインターネット取引を更に促進するものと思われる。信販業者、販売業者ともに決して損な選択ではない 。近く予定されているといわれるわが国の割賦販売法改正において、この視点・効用を看過すべきではない。

  1. 2001年のGreen Paper on EU Consumer Protectionの提出を機にEU加盟国に諮問され、各国政府、消費者団体、事業者団体、学会等のコメント,2002年のFollow-up Communication to the Green Paper on EU Consumer Protectionの提出を受け、2003年6月に欧州議会に提案され、2005年5月11日に採択された。
  2. 主要な条文の詳細は、2005年11月25日に奈良で開催された近弁連シンポ第一分科会「消費者契約法の改正~もっと使える消費者契約法を目指して~」の冊子に適切に紹介されている。
  3. EU加盟諸国の公正取引慣行に関する法制度については、各国の学者が参加して取りまとめた Analysis of National Fairness Laws Aimed at Protecting Consumer in Relation to Commercial Practices(2003)にコンパクトに紹介されており、参考になる。
  4. 指令前文(9)(10)参照。
  5. 主な改正点は、適用対象金額の上限規制の撤廃、開示範囲の拡大、契約の有効性判断・考慮要素としての「不公正な関係」条項の規定、クレジット契約にかかわる紛争への金融オンブズマンの関与などである。
  6. Office of Fair Trading v Lloyds TSB Bank plc [2006] EWCA Civ 268