消費者法のゆくえ

弁護士村本 武志

民法改正の動きと欧州消費者法

 債権法を中心とした民法改正に向けた議論が、平成21年11月24日から法制審議会で始まった。2012年の通常国会に改正法案が提出予定とされる。これに先立ち学者グループからいくつかの提案がなされ、その中に、改正民法中に、不実表示、断定的判断の提供などの不公正商慣行規制と約款規制を民法に取り込むべきとする意見が強く主張されている。前者は、不実表示を一般化し、断定的判断は消費者取引のみの適用として統合するものである。
 しかし、このような立法例が必ずしも一般的ではない。不公正商慣行の規制については、大別して、(a)競争法または市場法によるもの、(b)商法、競争法、消費者法のうちの複数のコンビネーションにより民法の一般原則を補完原理とするもの、(c)民法の一般原理によるもの、(d)成文法によらず判例法によるものがある。
 現在、2005年不公正商慣行指令の国内法化が進められている。(a)による例にオーストリア、ベルギー、デンマーク、ドイツ、ギリシア、ハンガリー、リトアニア、ルクセンブルグ、スエーデンが、(b)による例にチェコ、エストニア、フィンランド、ラトビア、ポーランド、スロバキア、スペインが、(c)による例にフランス、イタリア、マルタ、オランダ、ポルトガル、スロベニアがある。(d)による例にキプロス、アイルランド、英国があったが、キプロスは「2007年誤導および比較広告法」と「2007年事業者の消費者に対する不公正商慣行法」、アイルランドは「2007年消費者保護法」、英国は「2008年不公正取引からの消費者保護規則」と「2008年誤導営業からの事業者保護規則」をそれぞれ成立させ、制定法による規制に移行した。

被害救済の基本的な枠組み

 このような規制の根拠とは別に、事業者による不公正商慣行の結果として生じた被害回復を、もっぱら個人の自助努力に頼るのか、それとも行政による強力なサポートにより達成しようとするかという問題がある。しかし、そこでどのような消費者法をイメージするのかという点である。消費者保護についての行政の役割をどの程度認めるのか。これについては、必ずしも議論の方向が定まっているわけではない。
 消費者の利益が侵害される場合の対処策として、行政処分や刑罰による制裁と、損害回復に向けた民事上の救済がある。もちろん、この両者は矛盾するものでない。しかし、どちらに力点を置くかで、消費者法の性格が変わるように思われる。誤導や威迫などの不公正な商慣行について個人や団体による民事救済の求めにより対処するのか、これを刑事・行政上の手段により対応し、損害の回復は行政による違法収益のはく奪と被害者への回復によることを本則とするのか。
 ドイツでは、不公正商慣行に対して強力な民事上の予防・救済を認め、そこでは消費者団体が大きな役割を果たす(ドイツ不正競争防止法)。
 これに対しフランスでは、不公正商慣行に対する民事上の請求は、自由な競争を阻害するという理由から主として事業者間で行われる。事業者・消費者間では、むしろ事業者への刑事・行政上の制裁が中心となる。事業者の虚偽情報に対しては刑事罰が課され、競争・消費・詐欺処罰局(DGCCRF)が違反行為の摘発・調査に広汎な権限を持つ。これは商品販売上での詐欺や変造についても同様である。北欧諸国でも、不公正商慣行に対しては刑事・行政規制が中心となる。スエーデン市場法は、誤導広告について一般規定のほか、特別の規定を置く。ここで、損害賠償請求が可能とされるのは特別の規定違反に限られる。また、規制の執行については、オンブズマンが重要な役割を果たす。例えばフィンランドでは、オンブズマンは消費者庁の長として、事業者による適正業務や裁判例の基準となるガイドラインの策定を行う。また、不公正約款の差止の申立、消費者苦情委員会の決定に従わないケースにつき消費者を支援する(消費者庁法9条)。英国法もこれに属するが、事業者の自主規制規則を中心とする。

わが国の方向

 集団的消費者被害回復制度等に関する研究会報告(平成21年8月)を受けて、個人による救済の求めから集団的な回復に向けたスキーム構築の議論が政府部内で開始された。さて、わが国は、民主導か官主導か、いずれのみちを選択すべきか。