1 販売預託商法とは
消費者被害の中で最も大規模な被害を発生させた事案は、いわゆる販売預託商法(以下「預託商法」という)による被害であろう。最も有名な預託商法の被害事件は、1985年ころに発生した豊田商事事件であろう。この預託商法の典型は、業者が顧客に物品(豊田商事事件では、その物品は金地金)を販売し、それを購入した顧客をして、購入したその物品を直ちに預託業者に預託させ、預託業者は、預託期間中、預託を受けた物品を運用した利益を顧客に配当したり、預託期間経過後に物品の価値を高くして顧客に返還する、というような商法である。このような商法では、顧客は、目的物品を購入しても直ちにその物品を預託業者に預託してしまうため、目的物品の存在を確認することができない。そのことを利用して、悪質な業者は、実際に保有している物品より遙かに多数の売買契約を締結して契約数を増やし、次々と新しい顧客から販売代金を獲得し、その販売代金の一部でもって物品運用による利益であるという名目で顧客に配当金等を支払う。しかし、預託物品の返還期限が到来しても、目的物品は存在しないから、顧客は物品の返還を受けることができず、この時になって初めて違法商法に気付くことになる。預託業者は、このような時点まで上記のような自転車操業を繰り返して顧客を拡大していくため、被害者が多数となり、被害額も拡大していくのである。
2 預託商法による被害
豊田商事事件では、被害者数は約3万人、被害総額は約2000億円と言われている。その事件後、このような商法を規制する法律として預託法が制定された。しかし、その後も、牛を預託物品とした安愚楽牧場事件(被害者数約7万3000 人、被害総額約4200億円)や、磁気治療器等を預託物品としたジャパンライフ事件(被害者数約7000人、被害総額約2000億円)、加工食品の通信販売等による預託商法を行ったケフィアグループ事件(被害者数約3万人、被害総額約1000億円)などが発生した。
3 預託法の大幅改正
このように同種の事件の発生を防止できなかった原因の一つは、預託法が政令で定めた「特定商品」による預託商法だけを規制していたからである。そこで弁護士会や消費者団体はかねてから預託商法を全面的に規制することを求めてきた。そのような意見に押され、国は今年(2021年6月)、預託法を改正し、やっと「販売を伴う預託等取引を原則として禁止する」と明記した。
また、今回の改正では2段階の確認制度というものが採用された。第1段階の確認は、業者は、物品販売の勧誘や広告を行う前に内閣総理大臣の確認を受けなければならないとするものである。この確認において、取引内容や業者の財務体質の健全性が審査される。さらに第2段階の確認は、業者は、個別契約を行うときも個別契約毎に確認を得なければならないとするものである。このような2段階の確認により、悪質な業者を排除することを目指したものである。
さらに、この確認を得ないで預託商法の勧誘等を行った者には、5年以上の懲役若しくは500万円以下の罰金が科されるか、または併科される。改正前では、最高で2年以下の懲役又は100万円以下の罰金であったので、改正法の効果が期待できる。
4 改正預託法の今後の課題
しかし、預託法は、その預託期間を3か月以上と定めており、今回の改正でもこれが維持された。ところが、上記のケフィアグループ事件では、預託契約内容が曖昧で、預託期間の開始時期が明確にされていないことから、改正後の預託法でもケフィアグループ事件は規制できない可能性があり、今後も預託法の潜脱事件が発生しないか注意を要するであろう。