特定商取引法5年後見直しの課題

弁護士国府 泰道

1 はじめに

 特定商取引法の最近の改正は2016年改正でした。その改正法附則には「政府は、この法律の施行後5年を経過した場合において、この法律による改正後の特定商取引に関する法律の施行の状況について検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて所要の措置を講ずるものとする。」と定めています。何年か後の見直しを法律上規定する例が最近は多くなっています。
 改正特定商取引法の施行が2017年12月でしたので、2022年12月から見直し作業が開始されるはずです。そこで、この機会に、特定商取引法の改正すべき課題を見ておきたいと思います。

2 不招請勧誘規制

 文字通り招かれざる者による勧誘を規制するというもので、顧客のほうから来訪を要請したような場合にのみ顧客宅での訪問勧誘が許されるというものです(これをオプトイン規制といいます)。さらに、広い意味では、拒絶の意思を表明している顧客に対する勧誘をしてはならないというもので、訪問販売お断りステッカーを貼っている顧客宅へは訪問勧誘が禁止されるという規制も含まれます(これをオプトアウト規制といいます)。
 電話の場合には、諸外国で多く採用されている「ドントコール制度」といって、あらかじめ営業の電話を受けたくないということを政府機関に申し出た顧客宅へは電話勧誘をしてはならないという制度もあります。
 2016年改正では、特定商取引法改正専門調査会でこれらの制度の導入を進める方向で議論が進められましたが、新聞業界等の反対で制度化が見送られました。5年後見直しでは、これの導入が課題となります。
 2016年以降、奈良県、大阪市、野洲市、玉名市など、いくつかの自治体で、拒絶の意思を表明している顧客に対する勧誘を禁止する条例ができてきており、各種のアンケートでも95%くらいの人がこういった勧誘を迷惑だと回答しており、社会の趨勢はこれらの勧誘を規制すべき方向に向かっていますので、これが改正課題となります。

3 通信販売の規制強化

 これまで通信販売分野は、広告表示さえ適正になされておればトラブルは生じないということで、クーリングオフ制度や各種の取消制度の対象外でした。また広告は勧誘ではないとも位置付けられてきていました。しかし、国民生活センターが全国の消費生活センターの相談を集約しているPIO-NETによると前項の消費生活相談約90万件のうち通信販売関係が約4割を占めています。
 インターネットの普及により、ほとんどの契約は広告のみによる情報提供で契約締結に至っており、広告が勧誘の役割を果たすようになっています。しかもその広告は、ターゲティング広告やSNSを通じての積極的働きかけなど、積極的勧誘ともいうべき実態があります。アフィリエイト広告のようにある商品の紹介記事(体験談や評価等)により、耳寄り情報か広告なのか分からないような広告手法で勧誘するもののもあり、インターネット広告は大変巧妙なものになってきています。
 このように積極的な勧誘をもいうべき広告のことを総称して「アクティブ広告」とも言っています。日弁連ではネット広告による通信販売への対応を求める意見書を2020年7月に出しています。
 お試し購入(定期購入)については、2021年の法改正で不実告知による取消が通信販売分野では初めて導入されました。
 日弁連ではネット広告による通信販売一般に不実告知による取消制度を求めています。またネット広告は次々と変化していくので、後に被害に遭ったことがわかってもその広告を再現できないことから、広告の保存・開示義務を求めています。

4 連鎖販売の規制強化

 連鎖販売いわゆるマルチ商法の被害も後を絶ちません。大学生など若者のマルチ被害はずっと続いています。成人年齢引き下げもあり、若者のマルチ商法にの防止は重要な課題です。
 日弁連では、22歳以下の者との連鎖販売取引は禁止するよう求めています。さらに借入金を利用してする連鎖販売取引の禁止、金融商品まがいの取引や投資用DVDなど利益収受を目的とした連鎖販売取引の禁止、連鎖販売の登録制と無登録業者の取締りなど、金融商品取引規制に類似した規制を求める考え方もあり、議論を深めるべき分野です。