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2004年6月に、公益通報者保護法が成立し、2年後の2006年6月から施行されていましたが、2020年6月に、同法の一部が改正されました。日常生活では余り意識する法律ではないでしょうが、内部通報をきっかけとした企業不祥事がニュースで報じられることもあり、不祥事が一般消費者に影響する場合も少なくありません。公益通報者保護法とはどんな法律なのか、何が改正されたのかについて、概要をお伝えします。
2 どんな法律? ―違法行為の通報者を保護
事業所内での違法行為が、組織的かつ継続的に行われている場合、関係者が違法であることを知りながらも是正のために声を上げることは、組織内部からは「裏切り者」として非難され解雇等の不利益を被ることがあります。また、不利益を被るおそれから通報自体をためらってしまうこともあるでしょう。
しかしながら、公益通報により事業所内の違法行為が是正されることにより一般消費者の安全安心が確保されると共に、当該事業者内部での改革も進み企業に対する信頼を取り戻すことも期待できるでしょう。実効性ある公益通報制度は事業者にとってもプラスになります。自動車会社のリコール隠しや食品等の偽装表示事件が内部通報によって明らかになり、企業不祥事がニュースを賑わしていた社会的な背景を踏まえ、解雇等の不利益な取扱いから通報者を保護するため公益通報者保護法が制定されました。
3 同法改正のポイントと問題点
同法制定当初から、保護の対象となる「公益通報」とは何かが分かりにくく(一覧表に示された法律に規定された犯罪行為等の事実に限定される等)、保護されるための要件も複雑・厳格で(事業者への内部通報が原則、外部通報には厳格な要件が必要)、保護対象も通報対象事実が生じた事業者の労働者に限定されていたこと等から、この法律で本当に公益通報がしやすくなるのかとの声もあり、施行後5年を目途に見直す旨の附則が付されました。
この間、オリンパスや、日産、スルガ銀行事案など相変わらず企業不祥事が相次ぎ、公益通報制度の問題点が指摘され、日弁連も同法を見直して改正すべきとの意見書を公表しました。また、同法制定後何度か検討会が開かれましたが、施行後5年経過しても改正さないまま、14年が経過して、今回やっと一部が改正されました。
主な改正ポイントは、①通報者の追加(退職一年以内の退職者と役員)、②行政機関等への通報要件の緩和、③事業者の内部通報体制整備義務、の3点です。
この改正で多少なりとも改善された点はあるとはいえ、使いやすく実効性ある公益通報制度とまでは評価し得ないのではないかと思います。
例えば、①現役の労働者に加え、退職者や役員も通報者に加えたことは評価できますが、一年以内の退職者に限定され、役員は、事前に調査是正措置を行うことが求められました。取引先事業者は追加されませんでした。通報の対象となる事実については、過料の対象となる規制違反行為が追加されましたが、一覧表に含まれる法令であるか否かを確認しなければならないことには変わりはありません。今回の改正のメインは、③の事業者の内部通報体制の整備を促すことで、現在、消費者庁において、事業者が公益通報体制整備のためにとるべき措置に関する「指針」の改訂作業中です。しかしながら、通報者に対して不利益な取扱いをした事業者に対する行政措置や刑事罰を科すことは見送られました。
改正法の施行日は現時点では未定ですが、①通報者の少しの追加と②行政機関等へ通報の少しの要件緩和と③事業者の内部通報体制整備により、どこまで公益通報者保護の実効性が促進されるのか施行後も注視したうえ、今後もさらなる改正を求める必要があるでしょう。