1 はじめに
新型コロナウイルスの緊急事態宣言下の休業要請・命令(ちなみに蔓延防止重点措置は時短要請・命令のみ)によって店舗を休業した場合に、賃料を支払わなければならないか、については多くの相談が予想されるところですが、司法判断はまだなく統一見解はありません。
以下は私なりの試論です。
2 休業要請により賃貸人が商業施設全体を閉鎖した場合
休業要請は公的な義務であり休業要請違反に対して休業命令が発せられこれに違反すると過料の制裁もあり閉鎖はやむを得ないものと考えらます。賃貸人には民法415条の責に帰すべき事由はなく、従って、これによって賃貸人が賃借人に対し債務不履行による休業損害など損害賠償義務を負うことはありません。
一方賃借人の賃料支払義務については、この場合は、当事者双方の責めに帰すことができない事由によって賃貸人の貸す債務が履行不能になったのですから、改正前民法536条1項が適用(2020年3月31日までの契約)されます。それにより賃貸人は「反対給付を受ける権利を有しない」とされているので賃借人は賃料支払義務を免れます。2020年4 月1日以降の契約は改正民法が適用され同条同項は「反対給付の履行を拒むことができる」と規定していますが、支払わなくてよいという結論は変わりません。
3 賃貸人が建物を賃借人において使用可能な状態においている場合
(1)賃料支払義務
この場合は、建物を貸す債務については履行不能になっていないと考えられるので、たとえ、賃借人が休業要請によって、休業したとしても536条1項を適用するのは困難です。
賃貸借契約において使用目的を「店舗として使用」と定めている場合には「店舗としての使用ができない状態」すなわち、建物を「店舗として貸す債務」が履行不能となっていると考える余地があります。しかし休業は店側の事情ですので、賃料支払義務はあるとされる可能性が大きいと思われます。
(2)賃料減額請求
借地借家法32条1項は、「建物の借賃が、土地若しくは建物に対する租税その他の負担の増減により、土地若しくは建物の価格の上昇若しくは低下その他経済事情の変動により、……不相当となったときは……当事者は将来に向かって建物の借賃の額の増減を請求することができる」と規定しており、この条文を使うことも考えられます。建物が休業要請によって使用されない状態になっているので建物の価値が下落したものとみて、賃借人から賃貸人に対し賃料減額請求をするのです。
これに対し賃貸人と賃借人の協議が整わない場合には、賃貸人は減額を正当とする裁判が確定するまで、相当と求める借賃の支払いを求めることができます。裁判が確定した場合において、すでに支払いを受けた額が正当とされた借賃の額を超えるときは、その超過額に年1割の割合による受領の時からの利息を付してこれを返還しなければなりません。
この方法をとるときの難点は、減額を正当とする裁判が確定するまで賃貸人の主張する金額の借賃を支払わなければならないことですが、新型コロナ感染症による休業要請というやむを得ない事情によって減額賃料を支払っているのですから、直ちに賃料不払で解除明渡は認められないと考えられます。
更には、売上げが減少し、賃料の不払に陥っている場合でも、新型コロナ感染症の影響により3か月程度の賃料不払が生じていても、不払の前後の状況などを踏まえ、信頼関係は破壊されていないと判断され、賃貸人による契約解除が認められないケースも多いと考えられます。
以上のことを踏まえ、賃借人としては賃貸人と粘り強く交渉することが必要とされます。