2018年7月6日、民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律等が成立しました。高齢化の進展に伴う社会経済情勢の変化を踏まえ、相続法の分野で改正がなされましたので、そのポイントをいくつかご紹介します。
(1)配偶者居住権の創設(新民法1037~1041条)
被相続人所有建物に相続開始時に居住していた配偶者が、居住建物(自宅)を無償で終身又は一定の期間使用する権利(配偶者居住権)が創設されました。子どもが自宅を相続しても配偶者は自宅以外の財産を相続したうえ自宅に住み続けることができるようになります。また、自宅を含む遺産分割が終了するまでの間、配偶者は引き続き自宅を無償で使用することができる権利(配偶者短期居住権)も創設されました。
(2)居住用不動産の配偶者への贈与等についての持戻し免除の推定(新民法903条4項)
婚姻期間が20年以上の夫婦間で、居住用不動産を遺贈又は贈与した場合、持戻し免除※(遺贈等の財産を相続財産に加えて相続分を算定する必要はない)の意思表示があったとの推定規定が新設されました。相続時に、遺産の先渡し(特別受益)があったとして配偶者の取得分を減額する必要がなくなります。
(3)預貯金債権の仮払い制度の創設(新民法909条の2)
相続された預貯金債権について、生活費や葬儀費用の支払、相続債務の弁済などの資金需要に対応できるように、遺産分割前にも単独で払戻しが受けられるようになりました。払戻しを受けた預金債権は、遺産の一部の分割による取得とみなされます。
(4)自筆証書遺言の方式緩和(新民法968条)
自筆証書遺言の財産目録については、自書でなくても、パソコンで作成したり、又、銀行通帳や不動産登記事項証明書等を目録として添付(但し目録への署名押印必要)できるようになります。
また、今後定められる様式の自筆証書遺言を法務局で保管できるようになり、その遺言書は裁判所での検認手続(遺言書の形状加除訂正の状態等の遺言書の内容を確認する手続き)が不要となります(遺言書保管法)。
(5)遺留分制度の見直し(新民法1042~1049条)
遺留分権利者は受遺者(又は受贈者)に対して、対象が不動産であっても共有とはせずに遺留分侵害額に相当する金銭支払請求ができることとし、また、受遺者等から請求があれば、裁判所は金銭支払に相当の期限を認めることができるようになります。
(6)相続の効力等に関する見直し(新民法899条の2)
判例により、相続させる旨の遺言書による権利の承継は、登記なくして第三者に対抗できるとされていましたが、遺言の内容を知り得ない相続債権者の利益を考慮して、遺言等により法定相続分を超えて承継された部分の財産については、登記等の対抗要件を備えなければ第三者に対抗できないことになります。
(7)相続人以外の者の貢献を考慮(新民法1050条、新家事手続法216条の2─216条の5)
相続人以外の親族が、被相続人の療養看護等を行った場合、相続人に対して金銭請求を可能とする制度が新設されました。
詳しい内容は、事務所で開催しますシニアライフセミナーでお話ししましょう。