民事執行法の改正って?

弁護士国府 泰道

1 判決を実現する民事執行の充実を

 法務省の法制審議会民事執行法部会は、2017年9月「民事執行法の改正に関する中間試案」をとりまとめました。
 例えば交通事故で被害を受けたとき、賠償請求の裁判で判決をもらって賠償金額が確定したけれども、加害者が判決で命じられた賠償金を支払ってくれないということがあります。そんなとき、判決書(これを債務名義といいます)に基づいて、加害者の財産(預金、不動産、自動車、保険解約返戻金、給与など)を差し押さえて、強制的に換価・配当を受けることができます。そのような手続を定めているのが民事執行法です。
 しかし、相手方の財産がどこにあるか分からなければ、差押えができず、せっかく苦労して獲得した判決書はただの紙切れになってしまいかねません。今日のように個人情報保護を理由に第三者が情報を得ることが困難になってくると、ますます財産探しが難しくなります。銀行預金を差し押さえようと思っても、どこの銀行と取引をしているか分からないときには、やはり差押えはできません。昔は、相手方がどこの銀行と取引しているかを調査するために、相手方の事務所へ出向き、カレンダー、灰皿、マッチ、メモ用紙などに銀行名が書かれていないか探したものです。
 そこで、この度の民事執行法改正では、債務者の財産について、銀行などの第三者に問い合わせて取引をしているかどうかの回答をもらう手続(「第三者照会手続」という)を創設する方向で議論が進められています。これまで差押えの対象となる財産探しに苦労してきた弁護士にとっては、大きな前進と期待されました。ところが法制審議会の中間試案では、照会の対象となるのが、銀行預金と勤務先情報(公的機関への照会)だけになりそうな気配です。株式、投資信託などの金融商品がその対象に入るかについて、法務省は消極的な様子です。弁護士会は、対象を不動産、自動車、有価証券などにもっと広げるよう求めています。

2 低所得者にとって過酷にならない執行制度を

 それ以外にも重要なテーマがあります。給与の差押えは、現行法では給与額が44万円までは4分の3が差押禁止となっており(給与額44万円以上のときは、33万円が禁止限度)、4分の1を差し押さえることができます。非正規雇用などで16万円しか給与をもらっていない人も4万円は差押えが可能となっています。その結果、差押えによって生活保護基準以下の給与しか持ち帰れないという事態が生じてきます。
 国税を滞納したときには、国税徴収法では、債務者1人で10万円、扶養家族が1人増えるごとに4万5000円を差押禁止としているのと比べると、現行の民事執行は、低所得者にとって過酷な制度です。そこで、弁護士会では、どんなに給与額が少なくても4分の1は差し押さえることができるという現行法を改正して、せめて10万円程度は差押禁止にすることを求めています。
 また、年金や児童福祉手当等の差押禁止とされている給付金も、一旦銀行に振り込まれてしまうとただの預金債権となり、差押えが可能です。そのため支給の翌日を狙って預金の差押えをしてくる債権者がいます。これでは差押禁止の趣旨が没却されることになるので、弁護士会では、預金口座に振り込まれた後も差押禁止とすることを求めています。

3 皆さんの関心を

 これら弁護士会の提案に対して、法務省は消極的であり、法改正に取り込まれるか危ういです。
 普通の市民の皆様にとっては、縁の遠い法律かもしれませんが、裁判を日常的に取り組む私たち弁護士にとっては、これら強制執行の問題は、最終的に裁判手続の成果が獲得できるかどうかを左右する重要な問題です。
 最近では、離婚したけども元夫が養育費を約束通りに支払ってくれないので、元夫の財産の差押えをしてほしいという事例も多数あり、いつ皆さんご自身や家族に関わってくるかもしれない身近な課題とも思われます。
 私たち弁護士と共に多くの国民の皆さんにも関心を持って戴きたいと思っています。

※中間試案の内容をご覧になりたい方は、下記のURLからどうぞ。「法制審議会民事執行法部会」でも検索可能です。
http://www.moj.go.jp/shingi1/shingi04900334.html