HPV(子宮頸がん)ワクチン薬害訴訟について

弁護士下枝 歩美

 HPV(子宮頸がん)ワクチン薬害訴訟のことをご存知でしょうか。HPVワクチンの接種により、それまで健康で、普通に学校生活を送っていた少女たちが今でも副反応に苦しんでいます。副反応は、全身の疼痛、痙攣、歩行障害、記憶障害等多様な症状に及びます。
 被害者らは、2016年7月27日、国及び製薬企業を相手に、全国で一斉に提訴しました。

 HPVワクチンは、子宮頸がんの原因とされているヒトパピローマウイルス(HPV)への感染を予防することにより、子宮頸がんの発症を防ぐことを目的とする医薬品です。
 もっとも、HPVワクチンでは、子宮頸がんそのものの予防効果は確認されていません(サーバリックスに至っては、前がん病変の予防効果すら確認されていません)。私たちが、「子宮頸がんワクチン」と言わずに「HPVワクチン」と言っているのは、そのためなのです。
 また、HPVワクチンの効果は極めて限定的です。そもそもHPVに感染しても、その多くは自然排除され、子宮頸がんに至るのはわずか0.15%と少なく、かつ長期間を有します。定期的に検診さえ受けていれば、がんになる前に発見し、治療することがほぼ100%可能です。さらに、ワクチンで防ぐことが出来るのは、子宮頸がんの原因となるHPVのうちの約半分(16・18型)のみで、HPVワクチンを接種しても、結局子宮がん検診は欠かせません。
 他方、HPVワクチンの副反応報告件数、重篤例報告件数は他の定期接種ワクチンと比べても極めて多く、重篤例発症率は6.5倍以上になります。
 2010年12月緊急促進事業が開始され、ほぼ無料で接種がなされるようになり、接種数は急増しました。さらに、2013年4月には定期接種化されています。しかし、そのわずか2ヶ月半後、副反応が多く報告されたため、積極的な勧奨は中止されました。
 多くの少女たちは、HPVワクチンの効果が限定的であることや、副反応の危険性があること等、十分な情報を与えられず、公権力の勧めるままにワクチンを接種しました。

 平成28年11月8日に大阪で開かれた第1回期日では、原告を代表して、被害を受けた少女が自ら意見陳述を行いました。本人の口から語られたのは、副反応による症状の苦しさだけではありません。まともに診てくれない医療機関、学校に通うことが出来ずに取り残されていくことへの不安感、そして希望を抱くことが出来ない将来、一人で耐えてきた辛さ。最後に涙をこらえきれなくなった彼女は、震えた声で、しかし、はっきりと「私たちを見捨てないでほしい」と言いました。鳥肌が立ちました。彼女たちを救えない司法であってはならないと理屈抜きに感じました。

 訴訟において、本件ワクチンを製造・販売した製薬企業の責任、本件ワクチンを承認し、予防接種施策を誤った国の責任を明確にしなければなりません。そのために、大阪だけでも40名を超える弁護士が一丸となり全力を尽くしています。
 しかし、司法には限界があります。少女たちが望むのは、治療方法・体制の確立、そして2度とこのような被害者を出さないことです。これは司法の力だけでは実現できません。エイズ、肝炎の治療が目覚ましい進歩を遂げたように、社会全体が関心を持ち、力を注げば、医療は飛躍的に進歩します。社会のみなさんの声が必要です。
 大阪訴訟の第2回期日は平成29年2月14日にあります。そこでも、原告の意見陳述が予定されています。被害に苦しんでいる少女の実際の声を聴いてください。
 この原稿を読んでくださり、少しでもHPVワクチン薬害訴訟に関心を持っていただければ嬉しく思います。