製造物責任法制定20年─「欠陥」とは

弁護士日髙 清司

1

 1994年に製造物責任法(PL法)が成立してから20年が経過し(翌年7月施行)、2014年11月8日に日本消費者法学会で「製造物責任法20年の軌跡と展望」と題するシンポジウムが開催されました。私が所属する日弁連PL・情報部会でも「実践PL法」を改訂作業中です。旧茶のしずく石鹸によるアレルギー被害事件やカネボウ化粧品白斑被害事件での損害賠償請求の根拠は製造物責任です。そこで、「欠陥」とは何か? 少し考えてみたいと思います。

2

 PL法制定以前、製造物の事故による損害を製造者に請求するには、民法の「不法行為」に基づき製造者の「過失」を立証(証明)する必要がありました。製造者が、当該事故が発生することをあらかじめ知ることが可能であり(予見可能性)、かつ、事故が発生しないような措置を取ることができた(結果回避可能性)にもかかわらず、十分注意しなかったために事故を発生させた場合(注意義務違反)に、製造者に「過失」があると判断されます。複雑な工程を経て多数人が関与して製品化される現代社会では、製品事故の被害者が製造者側の誰にどのような過失があったことの立証はとても困難です。訴訟も長期化しました(スモン訴訟等)。そこで、製造物による事故が発生した場合には、製造者の「過失」ではなく、当該製造物自体の客観的な状態である「欠陥」を責任要件として製造者に損害賠償義務を認め被害者側の立証負担を軽くして被害者保護を図ろうとしたのが、PL法です。

3

 PL法2条で、「欠陥」とは「…当該製造物が通常有すべき安全性を欠いていることをいう。」と定義されています。「当該製造物」にとって「通常有すべき安全性」がない場合に「欠陥」と判断されるのですが、では「当該製造物が通常有すべき安全性」の有無はどのようにして判断されるのでしょうか。同法は幾つかの判断要素を例示していますが(「当該製造物の特性」、「その通常予見される使用形態」など)、結局は当該製造物ごとに様々な事情を考慮して判断することになります。例えば、携帯電話をズボンのポケットに入れたままこたつに入って夕食を摂り、居眠りするなどしたところ携帯電話の発熱で太腿にやけどを負った事件で、仙台高裁は、携帯電話の特性(衣服に収納したまま移動してどこでも利用できる通信システム)を指摘したうえ、「通常の用法に従って使用していたにもかかわらず、身体・財産に被害を及ぼす異常が発生したことを主張・立証することで欠陥の主張・立証としては足りる」として携帯電話の欠陥を認めました(平成22年4月仙台高裁判決)。カプセル玩具を喉に詰まらせ幼児が窒息死した事件では、カプセル玩具を、3歳未満の幼児が玩具として使用することも通常予見される使用形態であるとして欠陥が認められました(平成20年5月鹿児島地裁判決)。しかしながら、こんにゃく入りゼリーを幼児が喉に詰まらせ窒息した事件では、喉に詰まらせる危険があることの警告表示があったなどとして、欠陥が認められませんでした(平成24年5月大阪高裁判決)。新規加工食品で容器からそのまま口に運ばれる当該こんにゃく入りゼリーと伝統的で調理されることが多いこんにゃくや餅と危険性を比較したうえ、抽象的な表現の警告表示で欠陥を否定した大阪高裁判決は、当該製品の特性理解と警告表示の評価に疑問があります。

4

 製品事故による被害者救済がPL法によって十分果たされてきたのか、PL法制定20年の経過をよく検証したうえ、茶のしずく事件やカネボウ白斑被害事件では、裁判所にPL法をしっかりと適用してもらうべく弁護団の一員としてこれからも取り組んで行きたいと思います。