消費者安全法という名の法律があります。2009年に消費者庁が設置されたのと同時に制定された法律です。
消費生活センターなどで収集された人身事故や取引被害などの被害情報を消費者庁に集約し(情報の一元化)、これを国民に速やかに情報提供すると共に事業者に対する行政措置を執ることにより被害の拡大を防ぐという趣旨で、被害情報の集約・情報提供(公表)・行政措置(勧告、処分)について定めています。
また、消費者被害情報の集約の端末機関(センサー)としての地方公共団体の消費生活センターについても定めています。この法律により初めて消費生活センターが法律に位置づけられることになりました。
まだ生まれて間がない法律ですが、2回にわたって改正がなされて、当初の法律よりも遙かに充実したものになってきています。
当初の消費者安全法の「重大消費者事故」という概念には、製品安全などの生命身体の安全に関する規定しかなく、取引被害に関する重大被害に関する規定はありませんでした。
2012年の改正では、「多数消費者財産被害事態」を定義して、重大な取引被害については、所管官庁がない場合には消費者庁が自ら行政処分をできるようになりました。これにより取引被害についてすき間なくすべての省庁が所管する形になりました(すき間を消費者庁が埋める形で)。また、同改正では消費者安全調査委員会(いわゆる消費者事故調)が設置され、これに関する規定が置かれました。
2014年改正では、大きく分けて3項目の改正がなされています。第1は、地域の見守りネットワークの構築、第2は消費生活センターの充実強化、第3はそれらの実施のための財政上の措置に関する規定です。
地域の見守りネットワークは、近年の高齢者被害の防止のために注目されてきた取組みであり、「消費者安全確保地域協議会」の設置、「消費生活協力員」「消費生活協力団体」の育成・確保に関する規定、ネットワークにおける情報の共有に関するルールを定めました。
消費生活センターの充実強化については、センター設置の参酌基準を定めて各地で条例化することを求め、消費生活相談員の国家資格化と試験制度、消費生活相談員及び行政職員の研修等について定めました。
財政措置に関する規定が新設されました。財政措置について法律上明記することは、地方消費者行政に対する国の恒常的な援助を実施するために効果的で、私たちが求めてきたものです。
私たちは、消費者安全法の制定当時、消費生活センターに関する規定が不十分なので、地方消費者行政を活性化するためには、消費生活センターや地方消費者行政の中身を法令で規定して、全国の水準を引き上げるべきだという意見を出していました。「消防力の整備指針」(消防庁告示)のように、人・モノ・金について国が基準を定めるのが早道だと考えたのです。しかし当時の政府関係者からは耳を貸してもらえませんでした。これが、「参酌基準」を法律で明記することにより一歩実現しました。
私たちは、消費者行政は周回遅れの分野であり、地方消費者行政を他の行政分野と同水準に引き上げるためには、国が地方に対して恒常的に援助するような仕組み(法律規定)が必要だとの意見も出していました。財政措置に関する規定も、「財政措置を講ずるよう務めなければならない」という努力義務的な規定ぶりは残念ですが、これに一歩近づく改正となりました。
消費者行政の強化のためには、消費者安全法をうまく活用すると共に、この法律の内容を充実したものにしていくことが効果的だと思います。
この法律にもっと注目していただきたいと思って紹介いたしました。
消費者庁ができて、その期待の大きさからして、まだまだ道遠しという感想を持たれる方が多いかもしれませんが、このように法改正の動きは少しずつではあっても着実に進んでいます。あとは、これをどう実行していくかにかかっています。