秘密保全法案って何が問題なの?

弁護士原田 隆之介

 先日、秘密保全法案の国会提出に反対するデモ行進に参加し、裁判所の周りを行進してきました。
 政府は、昨年8月に作成された、秘密保全のための法制の在り方についての「報告書」に基づき、秘密保全法案を国会に提出しようとしています。
 報告書の内容から推測される法案の中身を見てみましょう。

 まず、法案の柱は、(1)国の存立にとって重要なものを「特別秘密」に指定すること、(2)秘密の指定権者は行政機関であり、秘密を扱う人の「適正評価制度」を導入すること、(3)「特別秘密」を漏らした人に刑罰を科すことになると考えられます。

 「特別秘密」として取り扱う事項は、(1)国の安全、(2)外交、(3)公共の安全及び秩序の維持の3分野が対象となります。そして、「特別秘密」として取り扱う事項が広すぎると国の説明責任が果たせなくなるため、指定の対象を、前記3分野の中でも高度の秘匿の必要性が認められる情報に限定し、「特別秘密」に該当しうる事項を別表であらかじめ列挙することが予定されています。
 しかし、高度の秘匿の必要性が認められるものとは「特別秘密」を言い換えたに過ぎませんし、別表記載事項を絞り込むとどのような事項が秘密になるか明らかになってしまうため、別表の記載は概括的にならざるを得ません。
 結局「特別秘密」として指定される事項の範囲が何であるか、私たちにはわからないのです。
 高度の秘匿の必要性がなくなった場合に速やかに指定が解除されることを担保する制度として、一定期間毎に指定の更新をすることが予定されていますが、この制度では、政府にとって不都合な情報については、指定が更新されることは明白であり無意味です。
 また、事後に「特別秘密」に指定された情報を検証する制度もありません。

 「特別秘密」に指定された事項を取り扱う人の管理を徹底するために、適正評価制度が導入される予定です。適正評価制度とは、情報を取り扱うことが予想される人の住所歴、学歴、犯罪歴、懲戒処分歴、経済的信用状態等、普通は他人に知られたくないようなプライバシーに関する事項を調査し、その人が秘密情報を取り扱う適正を有するかあらかじめ判断する制度です。対象者の身近にあって対象者の行動に影響を与える者(配偶者・恋人等)も調査の対象となり、調査の対象者の範囲は無限に広がりかねません。そして、このように取得された情報がどのように管理されるのか全く不明です。

 また、罰則も設けられる予定であり、「特別秘密」を故意に漏えいさせた場合は懲役10年以下の罰則に科され、過失により「特別秘密」を漏洩させた場合も処罰の対象となります。「特別秘密」を取り扱う者に対し、漏えいを働きかける行為も処罰の対象となります。

 このような法案が成立すると、私たちの生活にどのような影響が出るのでしょうか?まず、政府が不都合であると考える情報は、政府の意思で、全て「特別秘密」に指定されてしまい、半永久的に隠蔽されてしまいます。これでは、私たちが主権者として意思決定をし、また、意思決定に誤りがあった場合にこれを正す事ができなくなってしまいます。
 また、勤務先が行政機関の業務を扱っていれば、秘密を取り扱うことが予想される者にあたるとして、適正評価の対象となり、プライバシーに関する事項に関して調査を受けるかもしれません。自分の身近な人が「特別秘密」を取り扱う者になることが予想されるとして、自分が適正評価の対象となることもあるのです。
 そして、秘密を取り扱う者になった場合、うっかりでも「特別秘密」を漏らしてしまった場合、刑罰が科されます。
 秘密保全法案の細部はまだ不明ですが、どのような法案になるのか今後しっかりと監視していく必要があるのではないでしょうか。