内縁夫婦の財産分与請求と当事者の死亡 ~内縁夫婦の財産分与請求の途中に夫が死去した場合における財産分与請求権の帰趨について(大阪家裁決定)~

弁護士国府 泰道

 高齢の内縁夫婦の離婚というよくありそうな事件なのですが、意外なことに法律解釈が裁判例として確定していないという事案がありましたので報告します。

 夫婦ともに高齢で、夫が再婚になるため入籍せず、二人は内縁関係にありました。内縁歴25年くらいで内縁関係が破綻し、妻から財産分与を求めたという事件です。
 審判途中に、夫が死去したので、相続人(前妻の子ら)に訴訟承継を求めました。

 相手方は、最高裁平成12年3月10日判決を援用して、夫が死亡したので財産分与請求権は認められないという主張でした。この最高裁判決は、内縁関係にあった夫婦において、一方(財産分与義務者)の死去により内縁関係が解消したという事例であり、内縁の妻には相続権がないので、死亡による内縁関係解消によって財産分与請求権は発生しないという判断をした事件です。
 本件が、まだ内縁関係が解消していないのであれば、最高裁判決により財産分与請求権が認められなかったかもしれません。しかし、本件は、夫生存中にすでに別居により内縁関係が解消しています。これにより観念上はすでに財産分与請求権が発生しており、相手方の死去により一旦発生した財産分与請求権が消滅するのではなく、相続人により相続されるだけのことです。

 このような当方の主張に対して、相手方は、内縁の相手方を看取った者には相続も財産分与もない(最高裁判決の事例)のに対して、途中で内縁解消した者には財産分与が生じるというアンバランスを指摘して、財産分与を認めるのは「著しく不正義」であると主張してきました。これに対して、私は、そのようなアンバランスが生じるのは、内縁関係が相手方の死去により消滅した場合に相続も財産分与もないという法制度の欠陥から生じているのであり、相手方の主張は本末転倒の議論であると、反論しました。内縁も婚姻に準じるという法理からすれば、共に形成してきた財産の分与を認めないことの方が不正義であると考えるべきであるというのが当方の見解でした。

 どこにでもありそうな事件ですが、この事件の先例はみあたりませんでした。これが第一の意外性でした。
 裁判の途中で、担当裁判官は、他の裁判官とも意見交換した結果、財産分与を認める裁判官、認めない裁判官がほぼ半々だと言っていました。私は、財産分与を認めるのが当然だと思っていましたので、裁判官の中でそのように意見が割れているという点でも意外でした。これが二つめの意外性でした。
 決定は、財産分与を認める内容になり、当方勝訴で終わりました。その理論的な説明は、私の主張したとおりでした。大阪高裁でも、この決定は維持されました。

 実務上のポイントは、財産分与請求の申立をする際に、婚姻夫婦の離婚請求の場合と同じように内縁関係の解消と財産分与請求の2つを求めるのはダメだということ(審理の途中に内縁夫が死去すれば、上記最高裁判決により財産分与は認められなくなる可能性が大)。あくまでも別居によってすでに内縁関係は解消している、だから財産分与のみを求めるという申立内容にすることがポイントです。