1 愛染蔵の破産
2006年3月、呉服販売の株式会社愛染蔵が破産しました。負債総額は約111億円にのぼりましたが、破産財団はわずか3億円2000万円程度に過ぎず、一般債権者への配当はほとんどありませんでした。
2 次々販売による被害者
しかし、愛染蔵における問題点は、愛染蔵が顧客に対し、必要もない呉服を次々と売りつけ(過量販売)、顧客の多くが多額の負債を負っていたことでした。しかも、その販売方法は、顧客を展示会に招待し、顧客が展示会に出席すると、小部屋に案内し、販売員ら数名で取り囲み、数時間から10時間にもわたって着物を試着させたりして購入を勧誘し、高額な着物を購入させるというものでした(愛染蔵商法)。そして、その購入の際、顧客のほとんどは信販会社による割賦販売契約を利用させられました。そのため、一回の支払額が少額であることから、次々と展示会に参加して割賦販売契約を重ねていき、気がつくと、総額数百万円から一千万円以上の負債を負ってしまった、というのが、大部分の顧客でした。大阪では、直ちに愛染蔵被害対策弁護団が結成されましたが、弁護団に登録した被害者の数だけでも158名にのぼりました。
3 信販会社の責任
上記のように、愛染蔵の従業員は、刑法上の詐欺罪や監禁罪に該当するような方法により販売したのですから、売買契約を取消して、愛染蔵から売買代金を返還させるという方法も考えられますが、愛染蔵は破産したため、売買代金の返還を受けることはできません。そこで、弁護団は、信販会社の責任を追及することにしました。しかし、旧割賦販売法30条の4では、将来の分割金の返済を拒否することはできましたが、既払金の返還を受けることはできませんでした。しかし、このように被害者が多くなった最大の原因は、信販会社が顧客の返済能力を無視して、安易に次々と割賦販売契約を締結したことにあります。
4 割賦販売法、特定商取引法の改正
愛染蔵と同様の商法により被害者が多数発生した事件は、愛染蔵の事件以前から、次々と発生していましたが、この愛染蔵の破産直後から、上記のような愛染蔵商法を規制する必要性が強く意識されるようになり、2008年4月、割賦販売法や特定商取引法が改正されるに至りました。
愛染蔵商法に関係した割賦販売法における大きな改正点は、(1)購入者が割賦販売契約を締結するとき、信販会社は、販売業者の威迫・困惑行為、不退去の有無などを調査しなければならない、(2)購入者が日常生活において通常必要とされる分量を著しく超える商品・役務を購入する契約を締結した場合、購入者は割賦販売契約を解除することができる、(3)割賦販売契約を利用した訪問販売等の契約締結のとき、契約に関する不実の告知や故意の事実不告知により契約したときは、購入者は、売買契約だけではなく、割賦販売契約も解除することができ、信販会社に支払った既払金の返還も請求できる、というものです。
まさに、愛染蔵商法を根本的に救済出来る内容の改正です。
5 被害者の救済
愛染蔵の事件は、この改正前の事件ですので、この改正法は適用されません。しかし、2010年9月、弁護団は、愛染蔵に関係した全信販会社との間で粘り強い交渉を行い、訴訟提起することなく、改正法を先取りしたような内容の和解を成立させることができました。改正法と同内容の救済方法ではありませんが、多くの被害者の方から大変喜んでいただきました。また、弁護団としては、その活動が、法改正の大きな原動力になったものと自負しています。