~業者倒産等で救済されなかった欠陥住宅被害者への福音~
1 耐震偽装事件が提起した問題
2005年に姉歯建築士によるマンションの耐震偽装事件が発覚した。マンション購入者は補修費用等をマンション分譲者ヒューザー、施工業者木村建設に請求したが、同社らが相次いで倒産したため補修費用は支払われなかった。大きな社会問題となったため、公的援助も検討されたが、補修費用を全面的に支給することは私財に対する公的資金の支出になるので見送られた。こうして、マンション購入者は泣き寝入りを強いられた。
2000年に施行された住宅品質確保促進法(以下「品確法」という)により、新築住宅の基本構造部分及び雨水の浸入を防止する部分に瑕疵(欠陥)があった場合、売主もしくは請負人は10年間の瑕疵担保責任を強制されている。しかし、業者が倒産等して資力がない場合には、事実上瑕疵担保責任による支払いを受けられないという問題点が改めて明らかになったのである。
2 住宅瑕疵担保責任履行法の内容
(1) 供託または責任保険の強制
このような問題に対応するため、国は、2007年「特定住宅瑕疵担保責任の履行の確保等に関する法律」(以下「瑕疵担保履行法」という)を制定した。
同法は、2009年10月1日以降に引き渡される建物について品確法による瑕疵担保責任を保障するために、住宅供給業者(建売の場合は宅建業者、注文建築の場合は建設業者)は、住宅の供給戸数に応じた保証金を供託すること若しくは責任保険に加入することを強制している。住宅供給業者が倒産した場合でも、欠陥住宅被害にあった住宅取得者は、供託所(法務局)に供託金の還付請求をしたり保険会社に請求することにより、損害賠償を受けられることになる。
(2) 保険金額について
保険の場合、個々の住宅について住宅供給者は保険契約を締結し、瑕疵により損害が発生した場合には保険金が支払われる。保険金は平常時は一定の瑕疵に基づく損害額の80%の保険金が住宅供給業者に支払われる。倒産時等相当の期間を経過してもなお事業者が瑕疵担保責任を履行しない場合には、住宅取得者に対して填補率100%の保険金が支払われる。保険金が支払われる対象になる損害は、修補費用(品確法上定められている瑕疵の直接修補費用)、調査費用(修補が必要な範囲、修補の方法および修補の金額を確定する調査のため支出した費用、修補金額の10%または10万円のいずれか高い額であって、実額または50万円のいずれか小さい方を限度とされている)、仮住居・移転費用(修補期間中転居を余儀なくされた住宅取得者の宿泊、住居賃借または転居に要した費用)とされている。また、填補額は、総額上限2000万円とされている。
(3) 免責・直接請求について
瑕疵が住宅供給業者の故意・重過失によって生じた場合通常の保険責任(住宅供給業者に対する保険会社の支払い責任)は免責とされるが、その場合でも住宅供給業者が倒産等した場合には住宅取得者から保険会社に対して直接請求をすることが可能となっている。
(4) 紛争処理機関について
住宅供給業者または住宅取得者は新築住宅の建設工事または売買契約に関する紛争が生じた場合には、指定住宅紛争処理機関(品確法に基づき各弁護士会に設置されている住宅紛争審査会が予定されている)に、当該紛争のあっせん、調停、または仲裁を申請することができる。指定住宅紛争処理機関が必要と認めたときは、保険会社は、利害関係人として紛争処理に参加しなければならない。また、保険会社は、紛争処理において成立した調停等の結果を尊重する義務があり、利害関係人として参加した場合には、特段の事情のない限り、提示された調停案を受け容れる義務が課せられている。