「金融サービス法」は身近な問題

弁護士三木 俊博

 いま、政府の金融審議会では「金融サービス法」(∗)の制定が検討され始めています。

(∗)「投資サービス法」と言われることもあります。これは「金融サービス法」から銀行と保険(の一部)を除いた場合の構想を指します。

 「金融サービス法」と言われても、銀行・保険・証券などの関係業務を規律する、一般市民の日常生活とは余り関係のない法律ではないか、と思われるかもしれません。しかし、実は、これからの私たちの日常生活、取分け資産形成・資産運用という生活(の財産的)基盤に重要な影響を与えるものなのです。

 既にご承知でしょうが、現在の我が国では、個人金融資産が1400兆円(一世帯当り平均1500万円)、人口の20%が65歳以上、年金給付の将来不安、金融業界の規制緩和という際立った社会的・経済的事情が重なって生じています。そのような背景の下、それまでのように生活(の財産的)基盤を伝統的な預貯金にのみ頼っていたのでは、超低金利も相俟って、壮年層にとっては資産形成がままならず、老年層にとっては老い先の生活維持にも不安が募る事態となっています。

 そのことが、銀行の手数料収入をめざした積極勧誘と相俟って、多くの市民を銀行預金から投資信託それも株式投資信託の購入へと移行させています。しかし、多くの市民にとって、じっくり投資の基本を学びつつ投信投資を行なっているのではなく、証券会社や銀行に勧誘されて、より良い金利(利回り)を求めて(言わば)言いなりに移行させていることも多いようです。実際に、証券会社に投資相談をかけたところ、リスク度の高い株式投信ばかりを奨められて、その後大きな損失を蒙ったという事件も生じています(私が担当して民事訴訟で一部被害回復の判決)。

 それだけではなく、先物業者による投資家被害が跡を絶たないばかりか、前掲の諸事情を背景に、何ら資格のない(端的に言えば)詐欺業者が、法律の間隙を縫って、未公開株を対象にしたり匿名組合などを舞台にしたりして、多くの市民を「投資被害」に巻き込んでいます。

 このような被害を防止し、もし被害にあった場合には適切な被害回復を図れるようにする「包括的な」法律が求められており、この「金融サービス法」にはその役割を担うことが期待されるのです。「金融サービス法」を金融・投資事業者のための法律ではなく、真に、市民投資家・投資被害者に役立つものとするには、次の事柄が盛り込まれることが不可欠です。

  1. いままで何らの法規制に服していなかった(∗)投資商法をも法律の規制対象とすること。

    (∗)「出資法」という刑事法はありましたが、その機能は極めて不十分でした。

  2. 「不招請勧誘」(∗)を禁止すること。適合性原則や説明義務を明確にし、その違反について(被害者が)損害賠償を請求できることを明確にすること。

    (∗)市民投資家が頼んでもいないのに勧誘してくる「押売り」は不要です。

  3. 簡易・迅速・強力な被害回復制度を設けること。

 これらは、英米など投資先進国では当たり前の制度となっています。我が国でも、一刻も早く、この世界標準に適った制度を作る必要があると思います。金融審議会(∗)への働きかけを強めましょう。

(∗)http://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/base.html