いわゆる呉服の愛染蔵に対し2006年3月21日、破産開始決定が出された。破産管財人の説明によると、同社は、2005年11月、呉服を過量販売したとして提訴され、マスコミで大きく報道されたため、商品の返品が相次いだり、融資機関が融資を制限したことなどから、倒産に至ったものであり、負債総額は約111億円に上り、資産は約3億2000万円にすぎず、一般債権者に対する配当は全く期待できないとのことである。
愛染蔵における過量販売の方法は、まず販売員が顧客の自宅を訪れ、呉服の展示会を見に来るよう誘い、その際、展示会参加の特典であるかのように説明して数千円の食事券や旅行券を購入させるのである。顧客は、その特典の代金を支払ったことから、その特典を得ないと損だという気持ちや、逆に特典を契約したから展示会に出席しないと申し訳ないという気持ちから展示会に出席するのである。ところが、展示会に行くと、ついたてで仕切られた小部屋に案内され、販売員や着物着付人など4、5名に囲まれ、出入り口にも人が立ち、監禁されたような状態で呉服の購入を迫られ、数時間から長いケースでは約10時間近く、契約をするまで説得させられ、あげくは、早く帰宅したいというような気持ちから、高額な呉服購入の契約に応じさせられるのである。ところが、その数日後、再び販売員が同じ顧客宅を訪問し、また顧客に特典だけの代金を支払わせて展示会へ出席しないといけない気持ちにさせ、再び展示会で同じような方法で呉服購入の契約をさせるのである。これを何度も繰り返すことにより、多い人では合計数千万円の呉服等を購入させられたのである。
そして、その代金返済方法はほとんどが信販会社とのクレジット契約である。つまり、愛染蔵と加盟店契約を締結している大手信販会社の従業員が、愛染蔵の展示会のある建物に常駐し、呉服購入契約が成立したら直ちに駆けつけ、信販会社との分割弁済契約を締結させ、愛染蔵はすみやかに信販会社から代金を回収し、信販会社は、呉服購入者から長期間に渡って高率の手数料を含んだ分割金を取得するのである(いわゆる「過剰与信」である)。
また、愛染蔵は、非常に著名な作者が作成した呉服であると説明をして、実際はそのような作者の作成ではない呉服を売りつけたこともあるようである。
このような被害者は、弁護団が把握しているだけで大阪内で300名を超えており、このような被害者を救済するため、大阪弁護士会の有志21名により愛染蔵被害対策弁護団が結成された。
この被害救済で最も大きな法的障害は、元の売買契約の抗弁が、クレジット契約において当然には主張できないこと、いわゆる抗弁の切断である。もっとも、割賦販売法30条の4により、愛染蔵に対して主張できる抗弁を信販会社に対しても主張できる。しかし、同条は、将来の債務の支払いを拒否できることを認めたものであり、既払金の返還を求めることを認めたものではない。したがって、大部分の返済を終えた被害者は、同条によっては救済されない。
また、同条により抗弁を接続できたとしても、愛染蔵に対し主張できる抗弁に限界がある。つまり、上記のような過量販売、過剰与信が当然に契約の取消事由や無効原因になるものではないからである。民法の一般理論である公序良俗違反や信義則違反を使わなければならないであろう。
また、販売の際に、販売員が呉服の作成者につき明らかに虚偽の説明をしていれば、民法の詐欺を理由とする取消を主張できるが、詐欺とまで言えないような虚偽の説明とか、取り囲まれて契約させられたという程度の場合は、消費者契約法4条、5条でしか契約の取消を主張できないところ、その取消の行使期間が6ヶ月内と限定されている。弁護団は、依頼者の契約が6ヶ月内ならば、緊急に取消の意思表示を行うようにしているが、ほとんどの契約は6ヶ月を経過しているのである。
弁護団としては、愛染蔵における販売方法が刑事上の責任を問うことができれば、取消権にしても民法上の取消を行使できるだろうし、公序良俗違反の主張も容易になると考えている。なんとか被害者を救済するため、弁護団の努力を結集して、この点にたどり着きたいものである。