日本に住む「外国人」と日本のこれから

弁護士原 啓一郎

 ここ数年在日外国人の増加が言われます。実際に増加しており、身の回りでも実感するようになっていると思います。少子化で労働力が不足するといった事情もあり、昨今では経団連も受け入れを要望していますし、フィリピン人看護師等の話題も出ています。しかし、「単純労働者受け入れ」には漠然と不安を感じられる方もおられるのではないでしょうか。職務上、多数の外国人に関わっておりその経験と、見聞から、得たところをぜひご参考にお知らせしたいと思います。
 増加のきっかけは、1990年ころ、バブルで人手が足りなくなり、出入国管理に関する法律(入管法)が改訂されたという事情と言われます。日系人(ブラジルなど)であれば簡単に在留資格(査証、ビザ。法務省入管が発給する期限付きの在留許可証で種類は様々。国家間協定で短期訪問の場合は相互に不要としている場合が多く、普通の海外旅行では不要な場合が多い)を得られたり、「興行」ビザが大量に発給されたり、日本語学校(「就学」)や大学等(「留学」)への通学や企業での「研修」、短期滞在で入ってそのまま期間を超過、途中で日本人と結婚して配偶者ビザ、等々の経緯が主なところです。(彼らは「ニューカマー」とも呼ばれます) 以来10年以上が経過し、帰国した人もいるでしょうが住み着いた人も多く、結婚や子どもが生まれ、日本しか知らない子どもが成長していくなどして、確実に定住化が進んでいます。統計(いずれも2002年または2003年)を見ると、日本の人口は約1億2700万人、外国人登録者数は191.5万人(含永住者)。これに、未登録で在留資格のない人や、帰化者、日本人とのハーフの子などを加えると約250万人との推計があります。人口の1.5~2%位のイメージ。今後を考えると、もはや単一民族国家が素晴らしいなどと言っている場合ではなく、うまく取り込んで付き合っていかねばならない時代がすぐそこです。
 さて、漠然とした不安がもしあるとしたらそれは何によるものでしょうか?
 よく、「不法滞在」「犯罪の温床」「治安悪化の原因」などと言われます。私はこの言い方が不安の元凶だと思っています。「不法滞在」とは、入管法上要求されている在留資格を持っていないことを呼称する言葉で、最初から持っていない、短期滞在などのまま期間を超過、期間の更新や資格の変更を不許可にされた、といった場合があり、2003年末で約22万人とされます。
 では、彼らが「犯罪の温床」なのかというと決してそうではありません。大半は、在留資格を許可されていないというだけで、普通に働いたり暮らしている市民です。存在しないはずの者という国の建前に反して、外国人登録はできるし労災も認められます。実際に彼らが直面している困難な問題は健康保険、運転免許、子どもの公教育、最近は雇用などです。「不法」よりは「非正規」滞在のほうが実態に語感が合うでしょう。「真面目に働く者は在留を認める」と運用が変われば「不法」でも何でもなくなる人たちです。犯罪統計(時期は前記と同)を見ると、刑法犯の検挙者数が日本全体で約37万人となっており(ちなみに5割超は窃盗。次いで横領、傷害が1万人超。以下詐欺、暴行、恐喝と続く。刑法犯以外で最も多いのは覚せい剤。いずれについても交通関係事犯を除く。)、うち外国人の検挙者数は約8700人、非正規滞在者では約1500人(全体の0.4%)です。また、殺人・強盗の「凶悪犯罪」の比率は日本人も外国人も検挙者数の約1%だそうです。これは、「外国人だから日本人よりも犯罪傾向が高いとか凶悪である」ということはないこと、量的にみても「治安悪化」の主要因ではないことを意味します。(主要因は、生活苦に陥る人が増え、展望が見えないこと、地域による教育力の低下や成功志向社会のストレスであると思われます。)
 それでも不安があるとしたら、それはひとつには相手を知らないということが理由でしょう。一人一人を知ると、いい奴だったり生きるのに必死だったり、特にアジア人はもてなしの心を強く持っていたり(結構日本語も勉強しています)、共感がわきます。勿論育った環境が違うので知識や感覚の違いはありますが、それがあると予期していれば何のことはなく、むしろ多様性の発見があり興味深く、居ながらにして国際交流ができたりします。
 不安の原因のもうひとつは、マスコミと、当局の姿勢です。マスコミ特にテレビは、少年犯罪でもそうですが、珍しい事件や自分の常識では理解できない事件と、非難しても叩かれない相手のときには大袈裟に取り上げるように思います。被害者にとっての事件の重みは1件1件みな同じはずですが、同じように取り上げられるわけではありません。取り上げられる事件の情報だけを見ていると、切り取られた一面が全体であるかのように見えてくると思います。それが不安を沸き上がらせているのではないでしょうか。さらに、当局もそういうことを助長あるいは主導しています。例えば入管のHPをみると、「不法滞在を減らせば日本はよくなる」みたいに書いてありますが、量の問題だけからして間違いでしょう。担当局ではない国のお偉方の発言はさらにいい加減で、例えば某国会議員の発言「不法滞在者など、泥棒や人殺しやらしているやつらが100万人いる」。4桁の間違い(日本の人口が5万人と言うのと同程度の間違い)をイメージだけで述べるわけです。このようなレッテル貼りを「ゼノフォビア」といって、そのうち注目されるようになる言葉です(ゼノス=外国人、フォビア=怖れる、意訳すると「外国人ぎらい」)ので覚えておいてほしいです。
 このように、漠然とした不安は根拠のない「作られた」ものにすぎないことを(そしてその不安が差別を生むことを)、想起していただきたいと思っています。
 本年もよろしくお願い申し上げます。