公益通報者保護法の国会審議

弁護士田中 厚

1 はじめに

 私は、日弁連の消費者問題対策委員会のPL情報公開部会長として、最近成立した公益通報者保護法の立法過程に関与しましたので、その経過をご報告します。

2 政府の法案の問題点

 政府の法案は、同法で保護される公益通報を極めて限定的に定めていました。日弁連は、最低限以下の3点が修正されない限り、現在よりも公益通報者の保護水準を切り下げ、かえって公益通報を抑制するおそれがあるので、法案に反対する立場を明らかにしていました。

  • 通報対象事実を、限定列挙された法令の犯罪行為・最終的に刑罰で強制される法令違反行為に限定せず、英国公益開示法にならって、人の生命身体財産への侵害・危険、環境破壊、違法行為一般、これらに関する証拠隠滅行為とすべきである。
  • 通報先を、被害の発生・拡大防止に必要と認められる者に限定しないこと
  • 外部通報の保護要件が極めて限定的に列挙されているので、一般的保護要件を付加すること。

3 緊急院内シンポジウムの開催

 法案の問題点を国会議員にアピールするために、衆議院議員会館内で、シンポジウム「これでいいのか!公益通報者保護法案」を開催しました。シックハウス事件、鳥インフルエンザ事件等の具体的事例をモデルに法案の問題点を明らかにしました。野党を中心に議員19名(秘書の代理出席も含めると24名)を含め130名を超える参加者があり、議員に法案の問題点と消費者側の意見がかなり伝わったようでした。

4 衆議院での審議

 内閣委員会で集中的な審議がなされました。5月19日に参考人質疑が行われ、私も日弁連を代表して、修正がなければ法案に反対せざるを得ないことを18分にわたって述べました。写真はそのときのものです。議員からの質問もあるので緊張しましたが、与党側からは、法案が制定された場合日弁連は相談窓口を用意する準備があるのか、という質問が公明党の大口議員から出た程度で、落ち着いて答えることができました。このときの模様は衆議院のホームページのビデオライブラリーで見ることができます。
 政府に対する質疑についても野党側委員全員に、法案の論点と質疑事項を送付し、原口一博議員(消費者担当ネクスト大臣)、泉健太議員などと面談して打ち合わせをしたため、法案の限定的要件に対する具体的な質問がなされ、国民生活局長等が答弁に窮する場面もありました。このように、審議内容では野党側が押していたのですが、自民・公明の賛成多数で政府原案どおり可決されてしまいました。

5 参議院での審議

 参議院では、野党側の質疑の中心となった岡崎トミ子議員、神本美恵子議員に衆議院の審議を踏まえた論点をレクチャーし、政府参考人に対する質疑内容を綿密に詰めました。
 そのため、参議院での審議は、ある無所属議員が「法案の個々の要件についてこれほど突っ込んだ質問がなされるのを初めて見た」と述べるほど充実し、法案の問題点を余すことなく明らかにすることができましたが、会期末直前の6月14日に与党側の賛成多数で可決されてしまいました。

6 今後の課題

 このように政府原案どおり可決されてしまったのは残念ですが、成立後も引き続き対象法律の政令による指定及び、解釈ガイドラインの作成など運用面について政府を監視していくことが必要です。また、施行後5年を目途に見直す旨の附則がありますので実態調査を継続し見直しを目指さなければなりません。国会審議のなかで、本法の限定的要件による反対解釈を許すものではない、一般法理による保護はこれまでどおりで絶対に後退しない、等の通報者に有利な解釈の根拠になる政府答弁もかなり引き出しましたので、日弁連で公益通報者保護法の解説書を発行して、通報者保護に資する解釈を広め確立することが肝要と考えます。