交通事故
交通事故で高次脳機能障害が見つかったり、加害者が無保険者であったときなど、難しい問題があるときは、弁護士に相談してください。
Q&A
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Q1
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【もしも交通事故の被害者になったら】
自転車で交差点を走っていたら,脇見運転の自動車と衝突して,骨折してしまいました。現在,入院中で仕事を休んでいますが,加害者との交渉が気になっています。どのようなことに気をつけておけばよいでしょうか。
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A
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まず,皆さんご存じのとおり,事故直後には,必ず警察に届けること,それと目撃者を確保することが重要になります。また,できれば実況見分調書の作成に立ち会って現場で指示説明をして正しい図面を作成しておくことが後日の交渉のためには大切です。
加害者あるいは保険会社との示談交渉は,原則として,治療が終了して,治療費,休業損害等の損害額が確定してから行うことになります。
それまでの間,治療費等は被害者が立て替えて支払うことになりますが,加害者が任意保険に加入しているときは,通常,治療費に関しては保険会社が直接病院へ支払ってくれます。仕事ができないことから生活費が足りなくなったときは,示談成立前に休業損害等につき仮払いの請求をすることが考えられます。
通勤途中の事故の場合は,労災保険から治療費や休業損害の一部について給付を受けることができますので,勤務先に相談してみてください。なお,自動車保険と二重に給付を受けることはできません。
治療に関して気をつけることは,とにかく信頼できる主治医の指示に従い,治療に専念して怪我を治してしまうことが大切です。主治医の説明や態度に疑問があるときはセカンドオピニオンを求めることも考えられます。保険会社は事故後6か月ほど経過すると,機械的に治療費の支払いを打ち切ったりすることがありますが,治っていないのに仕事に復帰するなど無理をするとかえって治療が長引くことになりかねませんし,いったん治療を中断したような場合,再び体調を崩しても二度目の入通院の治療費に関しては賠償の対象外とされることもあります。
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Q2
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【後遺障害が残った場合】
骨折した部位の関節がうまく動きません。主治医には「これ以上は良くなりません。」と言われてしまいました。今後,どうすればよいでしょうか。
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A
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怪我が完治した場合、それまでの治療費や仕事を休んでいる間の休業損害、入通院慰謝料等の賠償を受けることになりますが,治療しても怪我が完治しない場合もあります。
この場合,これ以上治療を続けても良くならない状態を「症状固定」といいます。そして,そのときに残っている障害を後遺障害といいます。
症状固定になれば,建前としては治療を続けても意味がないことになりますから(逆に治療によって少しでも良くなるのであれば症状固定ではありません),症状固定後の治療費は賠償の対象にはなりません。また,症状固定後に仕事を休んでも休業補償は出ません。そのかわり,症状固定後は,残ってしまった後遺障害の程度,労働能力の喪失割合に応じて,逸失利益の賠償,及び後遺障害による慰謝料の賠償を受けることになります。
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Q3
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【事故で頭を強く打った場合(高次脳機能障害について)】
息子がバイクを運転中,自動車と衝突して意識不明の重体になりました。その後,手術により奇跡的に一命はとりとめましたが,後遺障害が心配です。どのようなことに気をつければよいでしょうか。
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A
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頭を打った場合は,事故直後及びその後は定期的に頭部のMRIないしCT検査をする必要があります。
画像所見において脳挫傷等の診断がなかったとしても,すぐに安心することはできません。事故によって,頭を強く打って意識不明の重体になったときはびまん性軸索損傷による高次脳機能障害が残る危険性があります。
びまん性軸索損傷の場合,脳細胞の神経が全体的に切れていることから事故直後の画像だけではわかりません。また,意識不明の重体から奇跡的に一命をとりとめたということで残った後遺障害は見落とされがちです。事故後,喋りにくくなった,怒りっぽくなった,同時に二つのことを並行してできなくなった等の症状がある場合は,高次脳機能障害の疑いがありますので,専門機関で詳しく検査をしてもらう必要があります。
また,ご本人の様子がおかしい場合は,どういったことができなくなったのか,周りの人が日常生活の記録をつけておくことも重要です。
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Q4
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【示談交渉】
後遺障害等級が14級と認定され,相手方の保険会社から損害賠償額の提示がありましたが,それが正当な賠償金額かどうかわかりません。示談するかどうか迷っています。
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A
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まずは,あなたの後遺障害が14級かどうか慎重に判断する必要があります。賠償額は後遺障害等級によって大きく異なります。後遺障害の等級認定に不満がある場合,異議の申立てができますし,(財)自賠責保険・共済紛争処理機構へ申請することもできます。
自動車事故による損害賠償の基準には,大まかにわけて,自賠責保険の施行令で定められている基準と,任意保険会社が独自に有している算定基準と,裁判所において認定される基準があります。
当初,保険会社からの提示は,自賠責保険に基づく金額が提示されることが多いと思われます。個別の交渉によって若干増額されることもありますが,個別の交渉による増額には限界があります。
示談交渉の場としては,個別に保険会社の担当者と直接交渉する方法のほかに,いわゆるADR(裁判外の紛争解決手段)として,日弁連交通事故相談センターの「示談あっせん」の制度や,財団法人交通事故紛争処理センターの「和解のあっせん」の制度があります。費用は無料ですし,中立的な立場の専門家が立ち会って,あっせん案を提示してくれますので,時間や費用の点からすれば「裁判まではしたくない」という方にはお勧めです。
ただし,どちらの信号が青色であったかというような事実に関する問題や,後遺障害等級が何級かという点で厳しく対立している事案は,ADRの手続きにはなじまないので,裁判所において厳密に事実認定してもらって判断してもらう必要があると思われます。
最終的にどの程度の賠償で納得するかは,今後の生活の不便などを考慮して,自分自身の財産的損害,精神的損害に見合う賠償かどうかという観点のほか,交渉にかかる時間や費用といった負担を勘案して,総合的に判断せざるを得ないでしょう。
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Q5
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【相手方が任意保険に加入していないとき】
自動車にはねられて怪我をしたのですが,加害車両の運転手は保険に入っていませんでした。こういった場合,賠償は受けられないのでしょうか。
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A
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加害者が任意保険に加入していない場合であっても,自賠責保険(強制保険)に加入しているときは,被害者が直接自賠責保険に請求して賠償を受けることができます。ただし,自賠責保険には法令で上限が定められていますので,その範囲でしか支払われません。
なお,自賠責保険の被害者請求の時効は2年から3年に改正されています。
加害者が自賠責保険にも加入していなかった場合,保険による賠償を受けることはできませんが,加害者本人に対して賠償を請求することはできます。ただし,加害者本人の資力がなければ実際に賠償を受けることは困難です。
人身事故の場合には,政府の保障事業があります。無保険の事故の場合のほか,ひき逃げの場合なども,政府の保障事業により損害のてん補を受けることができます。
あと知っておきたいのは,ご自分(被害者)の自動車保険に人身傷害補償特約が付いている場合,加害者が保険に加入していなくとも,自分自身の保険から,特約の保険金額の範囲内において補償を受けることができます。