『企業不祥事インデックス』を通読する

2025年12月25日

弁護士脇田 達也

『企業不祥事インデックス』(竹内朗、上谷佳宏他)を読みました。

 100件をはるかに超える企業の不祥事が、1ケースにつき2ページ(見開き)にまとめられ、掲載されています。著者はコンプライアンスなどを専門とする弁護士などです。

 事典のように使うこともできますが、今回は通読してみました。そうしてみると、企業の法令遵守の大局観が得られたような気分を味わえましたので、お勧めです。

 □

【建設会社の不祥事】

 私は欠陥住宅訴訟(住宅取得者側)を主力とする弁護士ですので、やはり、建設会社のものが気になります。

 「元建築士耐震強度偽装」は、リアルタイムで興奮していたころを過ぎ、今まとまったものを読むと、元建築士の特異性と、また逆に建築安全についての一般性とを、ともに改めて把握できました。

 「東洋ゴム免震積層ゴム検査データ改ざん」は、リアルタイムではチェックしたのみで深くは追っていなかったのですが、「免震材料の開発・製造の技術力が不十分であったのに、先行他社に追いつくために、最初の大臣認定取得時から不正を行った」とあり、できないのにできたと言ってしまうという、そのストレートさに驚きました。

 □

【事後対応による差】

 その他では、「パロマ給湯器一酸化炭素中毒」が印象的です。中毒死の原因となった不正改造(「短絡」)を行ったのは修理業者であり、パロマそのものではないのですが、事故発生についての告知・警告は不十分であり、同社元社長等は業務上過失致死罪で有罪判決を下されました。本件は、製品事故の捉え方への社会的影響も大きいものでした。現時点でも影響は残り、検索してみると、パロマはアメリカで給湯器のトップシェアであるにもかかわらず、国内ではリンナイ・ノーリツに大差を付けられた3位です。

 ここでさらに印象に残ったのは、同様に一酸化炭素中毒による死亡者を出してしまった、「松下電器石油温風機一酸化炭素中毒」です。「重点地区について一軒一軒巡回訪問するなど徹底した製品の探索活動」を行い、「類似事件を起こした松下電器は企業価値の減損を免れたとされている」と評価されています。

 □

【情報開示の難しさ】

 全体に、悪質さの印象(「酷いな」から、「巻き込まれたな」まで)は事例によって様々でしたが、判明後の対応が、まさに重要でした。

 やはり、「隠そうとすると裏目に出る」と感じます(もっとも、隠しきっている案件もあるのかもしれませんが…)。

 ただし、「不二家消費期限切れ原料使用」では、「マスコミの取材を受けた途端、事実の確認が取れていない事項等を含めて公表したが、確認が取れていない事項であるがために明確な回答に至らず、かえって隠蔽というイメージを増幅させた」と評価されており、難しいところです。