消費者契約法と学納金返還請求

弁護士日髙 清司

1 消費者契約法

 平成13年4月1日に施行された消費者契約法は、消費者と事業者間の情報の質、量、交渉力に格差があることを前提に、消費者保護のため消費者(事業者以外の個人)と事業者との間で締結された契約に関して適用される法律です。消費者保護に関する法律は、消費者保護基本法や製造物責任法、割賦販売法などがありますが、消費者契約法は、事消費者契約についてその契約類型にかかわらず(但し労働契約を除く)、契約そのものに直接効力を及ぼすという意味で、画期的な法律です。同法は消費者に、(1)契約が締結される過程で問題があれば後に契約を取消すこと(契約締結過程での事業者の不適切な勧誘行為につき、誤認・困惑を原因とする契約の取消権、同法4条)、(2)契約の内容についても問題があればその契約内容を無効とすること(約款等の契約条項のうち、消費者に一方的に不利益な条項の無効=不当条項規制、同法8~10条)を定めています。契約内容が無効となる場合として、<1>債務不履行、不法行為、瑕疵担保責任を全く免除する免責条項(同法8条)、<2>解除に伴う損害賠償の予定が平均的な損害額を超えるもの(同法9条1項)、<3>遅延損害金の予定が年14.6%を越えるもの(同法9条2項)、<4>信義則に反し消費者の利益を一方的に害する条項(同法10条)が規定されています。業者の言うことを信じて契約した後で事実と違うことが分かったり、業者が作成した契約書に消費者にとって不利益な内容が含まれていた場合には、今まではそんな契約はおかしいと感じながらも、詐欺・脅迫・錯誤無効などの民法上の要件に該当したり、特定商品に関するクーリングオフ制度に該当しない限り、契約の効力を争うことは困難でしたが、同法による取消や無効が加わり、消費者にとって契約の効力を争う道が広がりました。

2 入学前に納入した学納金不返還

多くの私立大学は、入学試験の合格者に対して入学式前に入学金、授業料等の学納金を納付させ、たとえその後入学を辞退しても学納金を返還しないことを入試要項に定めています。複数大学の受験生は、入学せず授業も受けていない学校の入学金や授業料までも支払わざるを得ない結果となっています。昭和50年に、当時の文部省は、「…授業を受けない者から授業料を聴取し、又当該大学の施設設備を利用しない者から施設設備費等を徴収する結果となることは、容易に国民の納得を得られない…」として、合格発表後短期間内に学生納付金を納入させる取扱は避けるようにとの通知を発しました。しかしながら、その後も多くの学校は入学辞退者からの返還請求に応用途はしませんでした。

3 学納金返還請求訴訟の提起

 学校側が入学辞退者に対して一方的に全納学納金を返還しないとすることは、まるでぼったくりではないのか、との問題意識から弁護団が結成されました。本年4月に110番を実施したところ、1日だけで約400件の相談が寄せられ、多くの受験生やその親はおかしいと思いながら泣く泣く学納金を納めていた実態明らかになりました。本年度の入試に関し、一部の学校は事前の交渉で授業料等を返還しましたが、返還に応じなかった関西地区の学校に対して6月に提訴し、さらに、その後、東京や名古屋にも弁護団が結成され、9月末までに全国で97校に対して、235人の原告が提訴に至りました。学納金の返還を認めなかった過去の裁判例もありますが、今後の裁判において、消費者契約法の下において、学校側(=事業者)が一旦納めた学納金を返還しないことが、信義則に反し受験生(=消費者)の利益を一方的に害することにならないか、また、入学辞退による学校側の損害を補填するためであったとしても平均的な損害を越えるのではないかなど、同法の条項やその消費者保護の精神からして、学問の府である学校の対応が、訴訟において改めて厳しく問われるべきです。