名古屋高判平成15年2月5日は、「本件は建築条件付き宅地分譲であるところ、本件広告文言は、独占禁止法に抵触しないために顧客を保護する重要な意義を有する」と判示しています。
なぜ、独占禁止法が問題となるのでしょうか? まず仕組みを説明します。
1 独占禁止法について
問題となるのは、「抱き合わせ販売」(独占禁止法19条・公正取引委員会告示「不公正な取引方法」10)です。
抱き合わせ販売が禁止された趣旨は、次の2点にあります。
一つには、「不必要な商品等の強要」です。人気ゲームソフト「ドラクエ4」に不良在庫のゲームソフトを抱き合わせ販売した、藤田屋事件が有名です。
もう一つには、「従たる商品等についての競争減殺」です。主たる商品について有力な業者が、従たる商品を抱き合わせ販売すると、従たる商品は劣っているのに売れてしまうことがあります。例えば、日本マイクロソフトがパソコンメーカーに対して、Excelのみの搭載を拒否し、ExcelとWordのセットでなければ搭載させないとした事件が有名です。審決では、抱き合わせ販売によりWordが一太郎とのシェアを逆転したと認定しています。
2 建築条件付土地売買について
多いパターンは、土地売買後3ヶ月の期間内に、売主の指定する建設業者との間で、建物の建築請負契約を締結することを条件として、土地売買契約が成立する(停止条件付売買契約)ものです。
建築条件付土地売買の場合、建物はあくまで請負契約であり、顧客が設計を決めます。
これに対し、建売住宅の場合、業者が既に建築確認を受けていますので(建物自体は未完成の場合もあります)、設計変更は原則不可です。なお、建築確認を受けていないのに建物の広告をすることは、宅建業法33条に反し違法です。
3 建築条件付土地売買で生じがちなトラブル
このように建築条件付土地売買の場合、顧客が注文者であり、自由に設計を決められるはずですが、トラブルが生じることがあります。
その原因は、まず、請負契約締結までの期間が3ヶ月と短いことが挙げられます。
また、指定された建設業者に、顧客から種々の注文に応じる技量に欠けることがあります。ほとんど建売住宅しか手がけたことがない業者、間取りを少し変える程度のことしかやったことがない業者もいます。
結果、顧客の期待と業者の認識にギャップが生じ、トラブルが生じます。
4 私見
建築条件付土地売買が「抱き合わせ販売」に該当するかを判断した裁判例や公正取引委員会の審決も、直接に論じた文献も見当たりませんでした。そこで私見を述べます。
私見によれば、建築条件付土地売買は、抱き合わせ販売禁止の趣旨に、よく当てはまります。
土地は地域によっては希少な商品であり、商品選択の幅が広くありません。このような状況では、建築条件が気にくわなくても、従わざるを得ません。「不必要な商品等の強要」に近いです。
また、特にその地域の土地を手広く扱っている業者の場合、土地を押さえる能力によって、その関係業者が建築を受注できてしまうことになります。「従たる商品等についての競争減殺」に近いです。そして、建売しかやったことのない業者が、顧客から注文住宅を受注するのです。
よって私見としては、建築条件付土地売買は望ましいとは思えません。まさに抱き合わせ販売ではないでしょうか。少なくとも、3カ月は短すぎます。
5 付言
実務的には、建築条件付土地売買の全てが独占禁止法違反から公序良俗違反となって無効というのは、考えがたいでしょう。
ただし、抱き合わせ販売禁止の趣旨に沿うような事情のある場合、例えば、広告に虚偽がある場合や、建築条件付土地売買でありながら請負契約を同時に契約してしまう場合(実際にはままある)などは、法的効力に疑問が生じます。
なお、大阪府のウェブページ「要注意!『自由設計』『フリープラン』をうたう契約のトラブル」もご参照ください。