最近の判決2題――老後資金を狙う金融機関に御用心

弁護士三木 俊博

被害が多くなっているのは

 いま、国民の金融資産が1900兆円にのぼり(日銀統計)、その多くを高齢者層が保有している。その運用受託を目指して、様々な金融機関があの手この手で働き掛けを強めている。銀行や郵便局からも投資信託や外貨預金の勧誘を受ける。一般市民も銀行金利が余りにも低く無きがごとき実情から、少しでも好い金利を得られる方法はないかと思案。特に、高齢者層では、年金の将来に対する不安と余命の延伸(人生百年時代)から、その思いが強い。しかし、投資信託や外貨預金・外国債券などには、将来=満期時あるいは換金時に、元本が減少するというリスクが内在していて、実際に損失を蒙ることも多い。販売する側は売らんがためにリスク(損失可能性)を抽象的あるいは小さくしか語らない。買い手となる高齢者も知識経験不足と銀行・郵便局などに対する信頼感から、リスク(損失可能性)の点を詳しく聞いて理解を深めようとの姿勢に欠けがち。ごく最近、私が担当した事例(但し若干改作)を紹介して、くれぐれも御用心、と呼び掛けます。

証券会社の熱心な勧誘には要注意

 或る高齢女性(Aさん)は御主人と死別後、公的年金と御主人が遺した優良株からの配当金を老後生活の糧としていた。Aさんの自宅に或る証券会社が訪ねてきて、投資信託を購入して分配金を定期収入にするよう勧誘したので、それを受入れ。そのうち、投資信託よりも5年満期の仕組債(∗)が良いとして、乗り換えを勧誘。Aさんはそれも受入れ。

(∗) 優良企業の発行社債は高齢者投資の定番だが、世界的な優良銀行の発行社債に特殊な取引を「仕組んで」高い金利を付けたもの。高金利に目が奪われ易いが、元本割れリスクも大きい。

 しかし、数年後に値が下がった(含み損失発生)として仕組債の中途売却(損切り)と乗換先として(国内株式)信用取引を勧誘。上手に誘導するということなので、不安だったAさんも結局は受入れ。ところが、担当職員はAさんの信頼を背景に次から次へと頻繁な売買。結局、売買損失は僅かだが手数料負担で大きな損失が発生。市役所の法律相談を経て私のところに。一連の取引誘導が行き過ぎ=違法だとして訴訟提起。数年かかったが、証券会社に1200万円の賠償を命じる判決を得ることができた。

キンの先物取引には手を出すな

 或る高齢男性(Bさん)は、公務員退職後、奥様とふたりで年金生活。退職金(預金中)につき、銀行金利は余りに低いので、上手に運用する方法はないかと考えていたところ、電話勧誘から商品先物取引業者の女性職員の訪問を受けることに。同行した上司の男性職員から金の先物取引のうち「損失限定取引」の説明を受けた。「ロスカット手法」を組み込んであり損失が限定的との説明に、参加申出。すると、実際、上手な売買誘導で、数日で3万円の利益。さすがプロ! と思ったところに、ならば「通常取引」へとの勧誘。素人が下手すると損失が大きくなるがプロが上手に誘導するので心配ない、との誘い掛け。先にプロの手際良さを見せられているBさんは、つい、乗り気に。ところが、通常取引が始まると次から次へと頻繁売買。僅か1ヶ月で投資資金700万円が殆どゼロに。その中味は、売買損失はごく少なく、殆どが手数料に消えたという酷さ。納得の行かないBさんは私のところに相談。訴訟提起の結果、勝訴判決を得て、損失金額の7割を回収することができた。(後日談)その先物業者は行き詰って倒産。回収後だったので「間に合った」と胸をなでおろした次第。