マンションにおける閲覧謄写のまとめ

弁護士脇田 達也

1 はじめに

 マンションは、区分所有者の全員で管理していくべきものです。管理にかかわるためには、基礎資料を閲覧できることが重要です。実務上、閲覧がまず最初の問題となることもありますので、整理してみました。

2 概要

 区分所有法も、標準管理規約も、区分所有者による閲覧を規定しています。また、裁判例も、広い範囲の書類(通帳や領収書等も含む)の閲覧を認めるものが多いです。ただし、謄写(コピー)については規定がなく、裁判例も一定していません。
 以下、まず、閲覧についての区分所有法の定め、次に、閲覧についての標準管理規約の記載、さらに、閲覧を認めた裁判例をみます。最後に、謄写についてまとめます。

3 閲覧についての区分所有法の定め

 区分所有法は、①規約の閲覧を定め(法33条2項)、また、②集会(総会)議事録の閲覧も定めています(法42条5項・法33条2項)。
 さらに、罰則まであります。規約、集会(総会)議事録について、「正当な理由がないのに、〔…〕閲覧を拒んだとき」は、拒んだ理事長などを、「二十万円以下の過料に処する」と定めています(法71条2号)。

4 閲覧についての標準管理規約の記載

 標準管理規約そのものは単なる参考例にすぎませんが、標準管理規約どおりに規約を定めているマンションも多いため、確認しておきます(以下、標準管理規約を、単に「規約」と書きます)。
 閲覧が記載されているのは、①規約、規約変更決議議事録、使用細則(規約72条2項、4項)、②総会議事録(規約49条3項)、③理事会議事録(規約53条4項・規約49条3項)、④「会計帳簿、什器備品台帳、組合員名簿及びその他の帳票類」(規約64条1項)、⑤「長期修繕計画書、〔…〕設計図書〔…〕修繕等の履歴情報」(規約64条2項)です。
 さらに、(閲覧ではなく、)管理組合の財務・管理に関する情報のうち、自らが必要とする特定の情報のみを記入した書面の交付を求めることも可能です(規約64条3項)。標準管理規約「コメント」によれば、「書面交付の対象とする情報としては、大規模修繕工事等の実施状況、今後の実施予定、その裏付けとなる修繕積立金の積立ての状況(マンション全体の滞納の状況も含む)や、ペットの飼育制限、楽器使用制限、駐車場や駐輪場の空き状況等が考えられる」とあります。

5 閲覧についての裁判例

 会計帳簿のみならず、それを裏付ける通帳、領収証、請求書等の会計関係書類や原資料の閲覧を認める裁判例も多くあります(東京高判平成23年9月15日判タ1375号223頁、大阪高判平成28年12月9日判タ1439号103頁、判時2336号32頁等)。

6 閲覧しうる者、「利害関係人」とは

 総会議事録、理事会議事録、会計帳簿等とも、「利害関係人」(区分所有法および標準管理規約)が閲覧することができます。利害関係人の定義について、標準管理規約「コメント」は、次のとおり記載しています。
 「第3項の『利害関係人』とは、敷地、専有部分に対する担保権者、差押え債権者、賃借人、組合員からの媒介の依頼を受けた宅地建物取引業者等法律上の利害関係がある者をいい、単に事実上利益や不利益を受けたりする者、親族関係にあるだけの者等は対象とはならない」

7 謄写

 謄写については規定がなく、裁判例も分かれています。

 東京地判平成21年3月23日(Westlaw 2009 WLJPCA 03238016)は、「閲覧対象書類が多数の事項、金額等を記載した会計帳簿等である以上、〔…〕謄写する必要性が高いというべきであり、また、本件管理組合の業務の面からみても、長時間にわたる閲覧に対応することは、業務に支障を生ずるおそれがあると考えられるから、謄写機械が発達している現在においては、条理上、謄写も許されると解するのが相当である」として、謄写を認めました。

 他方、前掲・東京高判平成23年9月15日は、「本件規約で閲覧請求権について明文で定めている一方で、謄写請求権について何らの規定がないことからすると、本件規約においては、謄写請求権を認めないこととしたものと認められる」「閲覧の時間を短縮するために謄写請求権を認めるべきとの主張は理由がない」として、謄写請求を棄却しています。

8 デジタルカメラによる撮影

 閲覧が認められ、謄写について規定がない場合に、デジタルカメラによる撮影ができるかについても、裁判例は分かれています。

 前掲・大阪高判平成28年12月9日は、組合員は、権利能力なき社団としての管理組合に委任しているとの法律構成により、民法645条(受任者による報告)の類推適用として、デジタルカメラでの写真撮影も認めています。

 他方、東京地判平成26年9月18日(Westlaw 2014 WLJPCA 09188001)は、閲覧が認められる書面についても、デジタルカメラにより撮影する方法による謄写請求を棄却しています。