もめない遺言書の書き方

弁護士田中 厚

1 弁護士による遺言書作成

 弁護士は遺言書の作成もその業務として行っています。遺言書作成の相談を受けた弁護士は、遺言をしようとしている方の希望に則して、法律的な効果を生じる適切な遺言書案を作成します。

2 遺留分に配慮

 また、生前贈与による特別受益が大きい相続人を除き遺留分に配慮しないと、遺留分請求を招きますのでもめる元になります。遺留分を侵害しない遺言書とするか、公正証書遺言の本文の後の「付言事項」で、遺留分請求をしないように伝える遺志を記載しておくことが考えられます。また、生前贈与が大きければ遺留分はなくなる計算になることもありますので、その場合も「付言事項」で記載して遺志を伝えます。

3 司法書士、税理士との連携

 不動産の相続、遺贈の場合には、司法書士の意見を聞き支障なく登記されるよう文言を考えます。
 相続税についても、ご相談があれば、提携している税理士の意見を聞いたり、複雑な場合は一緒に相談に行き、予想外の相続税で困ることのないよう備えることができます。

4 オススメの遺言の形式

 遺言の形式としては、自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言がありますが、公証人によって作成・保管され一番有効性が争われにくい(偽造・変造と言われない、誰かに書かされたとか、意思無能力だといって争いにくい)公正証書遺言とすることをおすすめします。生前公正証書遺言の存在や内容を秘密にできないとの説もありますが、私の経験と公証人の書いた本では、公証人役場は、遺言者の生存中は、相続人にも、遺言書の存否及びその内容を明らかにしない運用をしていますので秘密は保たれます。また、文字が書けなくても作成は可能です。遺言者が公証人役場に出向くことができない場合には、公証人が自宅や病院に出張して作成することもできます。
 弁護士は、日常的に公正証書の作成を公証人に依頼していますので、懇意にしている公証人がいます。連絡を取り合って、迅速に公正証書遺言の作成を完了することが可能です。
 公正証書遺言に必要な証人2名も、1名は弁護士、残りの1名もご用意するのが難しければ弁護士の法律事務所内で手配しますので難しいことではありません。なお、証人は遺言で財産を譲り受ける人、その配偶者、その直系血族は、なれません。

5 遺言執行者

 また、遺言書の中で、弁護士を遺言執行者に指名しておけば、遺言者が亡くなられた後、遺言内容を遅滞なく確実に実現させることができます。遺言執行者を定めずに遺言をすると、例えば相続人以外の者に特定の遺産、例えば不動産を遺贈する遺言をした場合、相続人全員が協力(実印の押印と印鑑証明が必要)しなければ裁判をしない限り登記をすることができません。弁護士を遺言執行者に指名しておけば、遺言執行者は遺言に従って遅滞なく登記手続を行います。

6 弁護士に依頼する場合の費用

 費用については、定型の場合は弁護士費用が13万円~23万円(税別)、そのほか公証人の費用が財産の価額に応じて必要ですが遺産が多額でなければ数万円かかる程度です。
 手続が複雑で費用もかかる短所があると言われている公正証書遺言書も弁護士に依頼すれば、間違いなく自分の意思が反映されたものが、スムーズに作成され費用もさほどかかりませんので、おすすめします。(なお、本稿は弊所ホームページhttps://taiheiyolaw.comの同名のコラムを紙幅の関係上2分の1以上短縮したものです。興味のある方はそちらもお読み下さい)。