更なる消費者の権利の拡大を求めて ─消費者契約法改正、クロレラチラシ最高裁判決─

弁護士西田 陽子

第1 拡大された消費者の権利

 消費者契約法(以下、「消契法」といいます。)は、事業者による、消費者との間にある情報の質・量及び交渉力の格差を利用し不当な利益を得ようとする行為から、消費者の権利を守る法律です。消費者の権利を拡大するため、平成28年に消契法の改正法が成立し、平成29年6月3日より施行されました。さらに、消契法にいう「勧誘」に広告が含まれるかという点について、平成29年1月に、画期的な最高裁判決が出されています。今回は、消契法の改正と最高裁判決により、どのように消費者の権利が拡大したのか、さらなる権利の拡大のために何が求められるかについて、お伝えしたいと思います。

第2 消契法改正 ─取り消しやすく、無効になりやすく

1 契約が、取り消しやすくなった

(1)過量な契約も取り消せる

 消費者の判断能力の低さにつけ込み、大量に商品を購入させる場合等に契約の取消しを認める「過量な契約の取消権」が新設されました(4条4項)。お年寄りが不要な健康食品を何年分も買わされる場合等が想定されています。

(2)不実告知の対象となる「重要事項」の対象が拡大された

 従来、不実告知等があった場合に契約を取り消せる「重要事項」とは、契約の目的物に関する事項であるとされていました。しかし、事業者が、「家にシロアリがいるから駆除が必要」という虚偽の説明をした場合、シロアリ駆除を依頼する契約自体ではなく、その契約を結ぶ「動機」について不実告知をしたにすぎないとも思われます。

 そこで、契約の目的物に関しない事項についての不実告知も取消しの対象となるよう、「重要事項」の対象が拡大されました(4条5項3号)。

(3)取消しのできる期間が、1年に伸びた

 取消権を行使できる期間(短期)が、6ヶ月から1年に伸張されました(7条)。

2 契約が、無効になりやすくなった

(1)「いかなる場合でも解除できない」という条項は無効

 消費者の解除権を一切認めない条項も、無効とする条項に追加されました(8条の2)。

(2)民法等の一般法理よりも権利を制限する条項は無効

 明文の規定のみならず、民法等の一般法理の適用の場合よりも消費者の権利を制限する条項について、無効の対象とすることが明記されました(10条)。

第3 クロレラチラシ最高裁判決

 また、チラシ等の広告に不実の記載等がなされていた場合に、「勧誘」に該当し消契法の適用があるかについては、議論のあったところですが、平成29年1月24日に、最高裁判所の画期的な判決が出ました。 クロレラ等を原料とした健康食品の販売業者に対し、消費者団体が、不実の記載のある広告(クロレラの効能により腰の病気が改善するなどと記載されたチラシ)の差止めを求めた事案です。最高裁判所は、不特定多数の消費者に対して「働きかけ」を行った場合でも、当該働きかけが「個別の消費者の意思形成に直接影響を与える」こともありえるから、「勧誘」に該当すると判断しました。

第4 さらなる消費者の権利拡大を求めて

 本最高裁判決は、どのような広告でも勧誘に該当するとしたわけではありません。しかし、消費者が、広告を読んで、その内容を信じて契約することは極めてよくあることです。そのような広告に不実の記載等があった場合に、消費者が契約を取り消し、広告を差し止めるよう要求することは、当然の権利といえます。

 現状に満足せず、消費者一人一人が自己の権利を自覚し、そのような消費者を弁護士がサポートすることにより、さらなる消費者の権利拡大を求めていくべきでしょう。

【参考文献】

① 消費者庁ウェブサイト「消費者契約法の一部を改正する法律」

② 消費者庁消費者制度課編『逐条解説・消費者契約法〔第2版補訂版〕』(109頁)

③ 最判平成29年1月24日(金判1510号30頁)

④ 松田知丈『消費者契約法の「勧誘」の意義 ─クロレラチラシ事件最高裁判決が投げかける課題』(NBL第1092号65頁)