シニアライフと様々な法律・制度

弁護士三木 俊博

近いうちに高齢者が30%以上

 今年(2015=平成27年)の秋、我が国の総人口が約1億2700万人のところ、65歳以上の高齢者は約3400万人で、その割合は約26.8%と総人口の4分の1を上回っています。なお、80歳以上の高齢者も1000万人を超えています(以上総務省発表)。そして、この高齢者人口比率は10年後の2025年=団塊の世代が75歳以上の後期高齢者となる時期には、30%を超すと見込まれています。

老い支度と独立自尊

 一概に高齢者と言っても、60歳代の時期では、退職年齢に差し掛かりますがまだまだ元気でしょう。しかし、70歳代となると、さすが、行動能力や判断能力に衰えを感じるようになりましょう。80歳代に入ると、足腰が衰えて一定の介護が不可欠となり、施設利用を考えることが必要となりましょう。そこで、60歳代になれば、心身が健常な間に、来たるべき70歳代、80歳代を迎える「環境整備」、平たく言えば「老い支度」を考えてみることが望ましいのではないでしょうか。
 老い支度とは、高齢化に伴う心身の衰え(その終局が死去)の中で、どのように人(ひと)としての尊厳を保ち、自らの生活に自己決定を貫くかと言うことではないでしょうか。そして、そのためには、家族の支援に加え、高齢化社会に備えて造られている社会的・法律的な制度・資源を上手に活用することが必要であり、そのことによってこそ、「独立自尊」のシニアライフをおくることができるのではないでしょうか。

介護保険法と成年後見法

 では、有用な制度・法律とは何か、ですが、まず、介護保険法と成年後見法∗1が挙げられましょう。この二法は2000(平成12)年4月1日から同時に施行され、「車の両輪」と呼ばれています。
 高齢化により身体機能が衰えた場合には介護保険法に基づく申請を行って介護サービスを受けることになります。判断能力が衰えた場合には、家庭裁判所を経由して、その程度により、補助・保佐・後見の決定を受け、補助人・保佐人・後見人の法的支援を受けることになります。これら介護支援・法的支援によって「独立自尊」が保たれると言えましょう。なかでも、「任意後見」は、自らが健常な時に、予め、自らの成年後見人を指名しておける制度であり、使い甲斐のあるものです。成年後見人は、判断能力が衰えたご本人のために、その財産を管理して生活費用を支給することや介護施設の利用契約など生活面にも関与し∗2、ご本人の「独立自尊」を支援します。

高齢者住まい法

 高齢者にとって「住まい」のことも重要なことです。この分野では「高齢者住まい法」∗3があげられます。有料老人ホームの契約関係の規制も担当する法律です。

遺言書(民法・相続編)と信託法

 死亡した後の財産管理に関しては、残された妻(夫)や子供への遺産承継に自らの意思を明確に反映するには(自己決定の一環と言えましょう)、遺言書の作成が不可欠です。厳格な要式が民法・相続編で規定されています。また、近時、信託法が改正され(平成19年9月30日から施行)、民事信託・家事信託が可能となりました。「遺言代用信託」「福祉型信託」などに利用価値があるようです。

自己学習と専門家活用

 高齢者がシニアライフの中で出会う諸問題は複合的・多面的ですが、それを解きほぐすのに利用される法律・制度は区々に分かれていることから、それらを上手に使いこなすには、かなりの学習や専門家の助言・助力が必要なようです。

  1. 法定後見:民法・親族編・第5章後見および第6章補助・保佐
    任意後見:任意後見契約に関する法律(略称「任意後見法」)
  2. 身上監護と言いますが、実際の介護サービスそのものは介護施設や介護事業者が行うものです。
  3. 正確には高齢者の居住の安定確保に関する法律。