コンピュータ・プログラムの違法複製に関する損害賠償請求

弁護士櫛田 博之

1 はじめに

 コンピュータ・プログラムの著作物の違法複製に関する損害賠償請求で、損害額の認定の仕方が争点になった事件を村本弁護士と私が担当しましたので紹介します。事件は大阪地判平成28年3月24日(平成27年(ワ)第7614号、以下「本判決」といいます)です。裁判所HPにもアップされています。

2 本判決

(1)事案の概要

 プログラム(3DCADソフトウェア。以下、「本件プログラム」といいます)の著作権者である原告が、同プログラムの不正コピー品を購入し、コンピュータにインストールして利用した被告に対し、不法行為に基づく損害賠償請求を求めた事案です。

(2)裁判所の判断

ア まず、裁判所は、Yの行為は複製権を侵害する違法な行為である、被告に過失があると判断しました。
イ 次に、裁判所は、被告が日本国内において本件プログラムを適法に利用するためには、原告の子会社を通じて原告とライセンス契約を締結して利用許諾を受ける必要があり、その場合、コンピュータへのインストール台数分(1台当たり380万円)を支払う必要があり、被告は、本件プログラムを2台のコンピュータにインストールした事実を認めているのであるから、著作権法114条3項にいう、原告が『受けるべき金銭の額に相当する額』は、複製権侵害行為が2回行われたことを前提に760万円を下らないものと算定するのが相当であると判断しました。
 そして、損害額の算定に関する被告の以下(ア)ないし(ウ)の主張について、すべて排斥しています。
(ア)損害額算定に当たり、ライセンス契約が原告の子会社を通じてされることを考慮すべきとの主張については、「著作権法114条3項にいう『著作権……の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額』とは、利用許諾契約(ライセンス契約)を締結した場合の利用許諾料(ライセンス料)を参酌するとしても、権利者は……その契約締結に応じるか否かの自由を有していることも踏まえて算定されるべき」とし、「本件における原告の損害は、……原告の主張する通常のライセンス料相当額をそのまま用いて認定するのが相当というべきである」と判断しました。
(イ)2台にインストールした目的や利用実態から、1台に準じた損害額として算定すべきとの主張については、「適法にライセンス契約を締結したとしても、追加ライセンス料の支払なしに2台目のインストールを適法になすためには所定の手続を要する……、もとよりそのような手続を経ようはずもない被告との関係において、それらの事情を斟酌して損害の算定額を減ずべきようにいう被告の主張は失当である」と判断しました。
(ウ)本件プログラムの利用期間を斟酌して損害額を算定すべきとの主張については、「被告の複製権侵害行為は、コンピュータへのインストールの機会になされ、損害発生は個々の機会をとらえて観念するのであるから、利用期間に応じた損害という主張はそれ自体失当である。」と判断しました。

3 これまでの裁判例

 コンピュータ・プログラムの違法複製に対する損害賠償請求について判断した裁判例として、例えば以下のものがあります。

  • ① 東京地判平成13年5月16日判例タイムズ1060号275頁
  • ② 大阪地判平成15年10月23日判例時報1883号104頁
  • ③ 東京地判平成19年3月16日(平成17年(ワ)第23419号)
  • ④ 知財高判平成27年6月18日(平成27年(ネ)第10039号)

 これらの裁判例は、著作権法114条3項の適用による損害について、本判決と同様、正規品の小売価格(使用許諾料)と同額であると判断しています。
 なお、前述の2(2)イ(ア)に関して、裁判例③にお
いて本判決と同様の判断が、前述の2(2)イ(ウ)に関して、裁判例①において本判決と同趣旨の判断が示されているところです。

4 本判決の意義

 本判決は、本件プログラムの著作権者に生じた損害として、小売価格(原告主張の通常のライセンス料)を基準にすること、日本の子会社を通じて販売していたこと、複数台にインストールした目的や利用実態、利用期間は損害算定において考慮されないことを明確に示しており、これまでの裁判例に従ったものでありますが、今後のコンピュータ・プログラムの違法複製に対する損害賠償請求において、参考になるものといえます。