「消費者の財産的被害の集団的な回復のための民事の裁判手続の特例に関する法律案」とは?

弁護士櫛田 博之

はじめに

 「消費者の財産的被害の集団的な回復のための民事の裁判手続の特例に関する法律案」(以下、「本法案」といいます)が衆議院を通過し、参議院で審議中(平成25年11月18日現在)なのはご存知でしょうか。どのようなものかよくわからないという方もいらっしゃることと思います。そこで、本法案の概要を簡単にご紹介したいと思います

どのような問題に対処するためか?

 消費者契約に関して相当多数の消費者に生じた財産的被害について、個々の消費者が自らその回復を図ることには困難を伴う場合があるので、その財産的被害を集団的に回復するためです。

どのような手続?

 二段階型の裁判手続になっています。一段階目の手続(訴訟)においては、対象消費者に共通する事項について審理がなされ、二段階目の手続においては、その結果をもとに、簡易迅速に対象債権が確定されるようになっています。
 一段階目では、財産的被害を受けた個々の消費者が訴訟を提起するのではなく、後述する特定適格消費者団体が共通義務確認の訴えを提起し、訴訟を追行します。一段階目の手続において請求が認められた場合、二段階目の手続において、対象消費者の方々の債権を個別に確定することになります。この段階で、対象債権及び対象消費者の範囲に含まれる者が特定適格消費者団体に授権する必要がありますが、手続の追行は当該団体が行います。

消費者のために誰が手続を追行するの?

 特定適格消費者団体(適格消費者団体のうち、一定の要件を満たすとして内閣総理大臣より認定された団体)が上記手続を追行することになります。認定を受けた団体のみ手続を追行できることとなっているので、消費者の方は安心して依頼することができるようになっていますし、事業者にも過重な負担がかからないように配慮されているところです。

どのような消費者の財産被害を救済できるの?

 例えば、事業者による同一のパンフレット・営業マニュアルなどを用いた組織的な違法勧誘により多数の消費者に財産的被害が生じたような事案、約款に無効となる条項がある場合において事業者がその約款を用いることにより多数の消費者に財産的被害が生じたような事案等がこの制度の対象となり得ると考えられます。
 他方、消費者に共通する事実上及び法律上の原因が認められないような事案、法案3条1項各号以外の請求、人身損害や慰謝料などの損害等はこの制度においては救済できないことになっています。

どうやって個々の消費者の方に知ってもらうの?

 裁判所による官報への公告、簡易確定手続を申し立てた特定適格消費者団体(以下「申立団体」といいます)による通知・公告、事業者による公表などにより、対象消費者に知ってもらうことになっています。
 なお、申立団体は通知を行うために、相手方である事業者に求めれば、原則として事業者は、対象消費者の氏名・住所等が記載された文書の開示を拒めないこととなっています(もっとも、事業者に過大な負担が生じないようにするための例外あり)。また、申立団体からの申立てにより、裁判所が文書の開示を命ずることも予定されています。

その他の特徴

 一段階目の手続の判決の効力(共通義務確認訴訟の当事者以外の特定適格消費者団体及び対象消費者の範囲に含まれる届出消費者にも及ぶ)、同種事件について同様の解決ができるようにするための方策(管轄及び移送、併合、関連請求の訴訟手続の中止等)、仮差押え等があります。

最後に

 本法案が成立するか∗∗、成立後にどのように運用されていくかについてはまだまだ分かりませんが、少しでも多くの消費者被害の救済につながるようになればと期待しています。

  • 消費者庁のホームページに掲載されている平成25年4月付「消費者の財産的被害の集団的な回復のための民事の裁判手続の特例に関する法律案について」に本法案の内容がわかりやすくまとめられています。
  • ∗∗本法案は、本稿脱稿後の平成25年12月4日に参議院で可決され、成立しました。