私のテキサス紀行 -アメリカ適合性原則の改訂施行にもふれて-

弁護士三木 俊博

 私は、2012年10月下旬、アメリカ・テキサス州の州都オースティンで開かれたPIABA研究大会に参加しました。

 PIABAとはPublic Investor Arbitration Bar Associationの略称(頭文字)。アメリカ合州国において、証券投資を巡る個人投資家(購入者)と証券会社(販売者)とのトラブルの法的解決を担当する弁護士たちの集まりで、相互研鑽を通して技能向上を図ると共に、実務経験を踏まえて関連する法令諸規則の改善を提言実行する専門家集団です。主たる会員は、全米各地(アラスカ・ハワイから東海岸諸州まで)の開業弁護士ですが、各州の証券当局の職員弁護士、法科大学院の教授(弁護士兼業者も多い)も相当数参加しています。毎年1回、10月下旬に、全国各地の会員弁護士が集って、研究大会を開催しており、今年は、第21回目を迎えました。私は、2001~3年に、日弁連(公益弁護)留学制度によってアメリカに留学して消費者法と投資者法を研究したこと(と言っても見聞の域を出ませんが) を機縁に、2003年の第12回大会から、ほぼ毎回参加しています。

 昨年はカリフォルニア州パームスプリングスで開催されましたが、ことしは、遠く、テキサス州オースティン。関西空港からサンフランシスコを経て(乗り継ぎ時間を入れ)20時間近くかかってオースティンに着いたのは午後7時(現地時間)。レンタカーを借りて同空港を出た時は既に夜。空港から高速道路に乗って市街地を迂回して郊外へ。郊外で一般道路に下りると、街路照明がない真っ暗な中で、何度も左折を繰り返す。郊外から田舎へ入ると道を間違えないようにと、緊張がいや増しに増す。ようやく、何とか、ゴルフ場つきリゾートホテルに到着。長旅と緊張でぐったり。その疲れが取れぬまま、4日間の会議に参加した次第。

 今回の大会では、FINRA(∗)の「適合性原則」が改訂され、今年(2012年)7月から施行されたことから、とりわけ、その内容と活用法に関する分科会が盛況でした。

(∗)Financial Industry Regulatory Authority: 証券業界の自主規制機構

 その改訂の要点は次の3点です。
 第1に、適合性原則が適用される投資行為とは、個別・複数証券の購入・売却・保有に加えて、一連の売買等を前提とする「投資方針(Investment Strategy)」をも含むことが明記されたこと。第2に、適合性そのものには、①合理的根拠適合性(私たちは「商品適合性」とも呼んでいます)、②顧客適合性(従前からよく知られている側面です)、③量的適合性(過当取引や集中投資などが適合性の一側面ということです)、以上3種類のものがあると整理されたこと。第3に、適合性の判定要素たる「顧客諸属性」は、既往の4点から次の10点に拡充されたこと。
 (a)顧客年齢 (b)同時並行する投資内容 (c)資産状態と金融需要 (d)納税状態 (e)投資目的/投資意向 (f)投資経験 (g)投資期間 (h)換金需要 (i)リスク許容度 (k)その他の(開示された)固有事情

 大会終了後、車を駆って南=メキシコ方面に向かい、古都サンアントニオに3泊。「アラモのたたかい」で有名な「アラモ砦」やその郊外にあってテキサス州がメキシコ領内であった時代の雰囲気を色濃く残すフランシスコ修道会系の旧伝道所(指定史跡)を観光して疲れを癒し、カリフォルニア州サンディエゴを経由して帰国した時には、11月になっていました。