裁判員裁判における選任手続・審理について

弁護士梶 広征

 平成23年6月、国選弁護人として裁判員裁判に参加しました。太平洋法律事務所に所属する弁護士が裁判員裁判に参加したのは初めてですので、皆さんに内容をご報告したいところですが、守秘義務の関係もあり、詳細なご報告はできません。
 そこで、皆さんが裁判員に選任された際の一助としていただきたく、裁判員裁判での選任手続や審理に関することを、本稿でお伝えしたいと思います。

 実際に皆さんが裁判員に選任される確率は、一体どのぐらいでしょうか。答えとしては、約0.02%、約4900人に1人です(平成20年の最高裁の試算)。思っていたより、少ないですね。
 ただし、残念ながら、大阪では凶悪犯罪が多く、確率は高くなり、約2900人に1人だそうです。また、これらの確率は、1年あたりの確率です。そうすると、生涯のうちに裁判員に選任される確率はもっと高くなり、皆さんが、裁判員に選任されることも大いにあるように思われます。

 次に、裁判員への選任ですが、大学生や70歳以上の方は、申し立てにより、裁判員への選任を免除されます。また、警察官・自衛官や法曹従事者(弁護士など)はそもそも選任から除外されています。しかし、その他の方は、原則、拒否等できません。
 ただし、私が関与した裁判員裁判においても、家族の介護や、自営をされているため、数日間も審理に参加することはできない方々がいて、その方々は、選任されないよう手続されていました。
 その一方で、会社を休んで選任手続に来た方々もいましたが、予定裁判日数を休む承諾を既に得ているなど、むしろ積極的に裁判員になろうと準備されている方が多かったように感じました。
 実際のところ、裁判員の選任手続には、100名前後が呼び出されていますが、選任される裁判員は6名だけであり、病気などで欠員が出た場合のための補充裁判員2,3名を含めても、審理の最後まで関与することになるのは8,9名です。そして、裁判員等は抽選によって選ばれますので、大半の方は選任手続だけで終了し、審理まで参加しないということになります。
 以上から、裁判員に選任されることは,希少価値のある出来事であり、貴重な人生経験になる、と言えるのではないでしょうか。

 さて、そのような過程を経て選任される裁判員裁判については、殺人罪や傷害致死罪、強盗致死傷罪など、いわゆる凶悪犯罪が対象です。凄惨な事件現場や被害者の状況を、写真等で見て、有罪無罪を判断することもありますが、どうしても写真を見ることができない場合は、無理に見ないでもよかったり、模型等で再現されていたりして、様々な配慮がなされますので、過度の心配はご不要です。

 また、皆さんは、法律の専門家でもない素人が、裁判に関与して被告人の人生を決める立場になって良いのか、との疑問をお持ちかもしれません。私が関与した裁判員裁判においても、選任手続に来られた方々は、何人も同様に話しておられました。
 しかし、裁判員裁判は、一般市民の感覚,常識によって、有罪・無罪や量刑を判断してもらうために導入されたものです。確かに、これまでの裁判員裁判の判決結果を見ますと、性犯罪を中心に、裁判員裁判では厳罰傾向にあるようです。ただ、これまでの裁判官のみによる刑罰が軽すぎたのであり、一般市民の感覚、常識によれば、この程度の量刑になるのだ、と考えれば納得できるものでもあります。
 また、私が関与した裁判員裁判においても、被告人に対して、裁判員の方から、これまでの裁判ではあまりなかった視点で、なるほどと思わせる鋭い質問がなされていました。
 ですので、皆さんが裁判員に選任された場合には、皆さんの感覚,常識に照らして判断していただいたら十分ですので、審理では遠慮せずに発言等していただけたらと思います。