日弁連人権擁護大会シンポジウムについて

弁護士日髙 清司

 11月5日(木)に、和歌山市民会館で、第52回日弁連人権擁護大会第3分科会「安全で公正な社会を消費者の力で実現しよう~消費者市民社会の確立をめざして~」と題するシンポジウムが開催されました。20年前島根県で開催された同じ人権大会で提唱された「消費者庁」が、ようやく本年9月に発足しました。今回は、さらに10年後・20年後の社会のあり方を消費者の視点から考えてみよう、ということになりました。
 今回の人権大会のために、日弁連消費者問題対策委員会は、日本の消費者問題の現状と課題を調査し、581頁もの基調報告書に纏めました。これ1冊で我が国の消費者問題の現状が理解できる「消費者問題白書」ともいうべきものです。
 シンポジウムでは、この基調報告書で指摘した課題のうちから、パネルディスカッション第1部で、消費者庁・消費者委員会の活性化、地方消費者行政の活性化について議論し、同第2部では、今後消費者が果たす役割として、「消費者市民社会」の考え方の紹介とその前提としての消費者教育、情報、消費者団体の重要性、について議論されました。また、シンポの合間に、劇団「そとばこまち」によるコントが上演されました。
 消費者庁・消費者委員会については、既に色々な媒体を通して解説されていますので、「消費者市民社会」の考え方についてご紹介します。日本では平成20年8月の「消費者行政推進会議取りまとめ」や「国民生活白書」で「消費者市民社会」が言及されましたが、これは、1990年代から、欧米(特に北欧)で提唱された「消費者市民」(Consumer Citizenship)の考えに基づきます。「消費者市民」とは、倫理、社会、経済、環境面を考慮する高い意識と批判精神を持ち、消費者としての購入や行動の結果について、家族、国家、地球規模で考え、その行動によって公正で持続可能な発展の維持に貢献する個人、と言われているようです。このような考え方が提唱された背景として、①グローバル化の進行、②大量消費社会の浸透、③サスティナビリティ(環境的・経済的・社会的・文化的持続可能性)の危機が指摘されています。企業の経済活動と政府の政策決定が国際的な広がりを持ち、情報通信技術の発達により世界規模で大量消費社会が浸透し、事業者側による個人の消費行動に対するコントロールが強化されました。その結果、市民=消費者の意見を事業者、政府に反映し消費者の権利を保護することが困難になり、地球温暖化、南北格差が進み、地球全体の持続可能性が疎外されかねない状況となりました。そこで、市民が主体的に意思形成し、積極的に社会に参加し、国際的な連帯のもと公正で活力ある社会を作ることにより、環境・経済の持続的発展を図る必要があるとの考えが方が生まれました。欧米とは社会構造が異なる日本では、社会のあり方そのものに着目するため「消費者市民」に「社会」が付け加えられたようです。
 「消費者市民社会」は、消費者被害の防止・救済を図る保護の対象としての消費者像から、消費者の権利確保が強調され権利の主体としての消費者像、さらに、国際社会の中で主体的・能動的な役割を果たす消費者像への転換と言えるでしょう。現実に多種多様な消費者被害が発生している日本の現状からすると、「消費者市民社会」の実現にはまだまだ多くの課題があります。まず、前提として消費者の権利を確実なものとするための適切な法的規制や社会制度が必要でしょう。また、消費者=市民の視点で主体的に社会に参加する消費者が育つための消費者教育の充実や、サイレントマジョリティと言われる消費者の声を事業者や行政に届け、また、自ら情報収集し学び、行動する場としての市民団体の役割も重要です。主体的な消費者を育て、消費者が活動する場となる消費者団体が活躍できる具体的な仕組みを整備する必要があるでしょう。政権が交代して消費者庁・消費者委員会が発足した今、市民=消費者の力によって社会の仕組みを変えていくチャンスではないでしょうか。10年後、20年後には、消費者の視点からも安全で公正な社会が実現していることを期待しましょう。