国際私法の現代化

弁護士高瀬 朋子

 外国企業を訴えたり、外国人配偶者と離婚をしたりするなど、国際的要素を持つ法律関係において紛争が生じた場合、どの国の法律を使って解決すべきかが問題となってきます。このような渉外事件における法律関係に適用されるべき国の法律を準拠法と呼んでいます。昨年、この準拠法の指定に関わる法律の改正が行われ、現代の民法や消費者契約法にも対応できる時代に即したものに生まれ変わりました。
 これまで日本では、どの国の法律を適用するかに関しては、100年以上も前の明治31年に作られた「法例」という名の法律により主に定められていました。しかし、近年、ハーグ国際私法会議や国連などにおいて、国際私法に関連する統一的な基準を定める様々な条約が作成され、地球規模で国際的な法制の調和が強く求められる中、国内においても「国際私法の現代化」が不可避となり、「法例」が全面的に改正される形で、「法例」に取って代わって「法の適用に関する通則法」(以下、「新法」といいます)が作られ、平成19年1月1日に施行されるに至りました。
 直接私たちの生活に関わりそうな主な改正点を挙げておきます。

1 後見開始の審判等

 後見開始の審判制度については、「法例」でも定められていましたが、外国に居住する日本人について日本の裁判所が後見開始の審判をすることができるのかなど管轄権について不明確であったため、今回、①成年被後見人(以下、被保佐人、被補助人も同様)が日本に住所又は居所を有する場合、②成年被後見人が日本の国籍を有する場合には、日本の裁判所が、日本法によって審判を開始することができると明記されました(新法5条)。

2 消費者契約

 新法では、契約における準拠法について、第一義的には当事者間で法律行為時(契約時)に準拠法を選択することができ、また、契約後も当事者間で変更することができると定めています。しかし、消費者契約の場合、事業者側が消費者保護のための法制がない国の法律を準拠法として選択する旨の契約条項を押しつけてくることが懸念され、消費者の保護が不十分となる可能性があります。そのため、このような場合でも、消費者が居住している国(常居所地国)における消費者保護規定などの強行規定の適用を受けられるようにして、消費者保護のための特則を設けました(新法11条)。

3 労働契約

 消費者契約と同様に、労働者保護のため、当事者間で準拠法が選択されていても、労働基準法のような労働者を保護する法制の適用を受けることができるように、当該労働契約に最も密接に関係する地の法律上の強行規定の適用を受けられるように規定されました(新法12条)。

4 不法行為

 不法行為によって生ずる債権の成立及び効力に関する準拠法について、「原因事実発生地」とされていたのが、原則として「結果発生地法(結果発生地が通常予見不能の場合には加害行為地法)」とされました(新法17条)。また、生産物の瑕疵により人の生命、身体又は財産を侵害する不法行為の場合には、被害者が生産物を取得した地の法律によることとし、例外的に、その地における同種の生産物の取得が通常予見することのできないものであったときは、生産業者の事業所の所在地の法律とする特例規定が設けられました(新法18条)。

 今後ますますグローバライゼーションの波が、日本に押し寄せてくることは必至です。近い将来、日本法のみならず、世界各国の法律を知っておかなければならない日も来るかもしれません。