食品安全委員会について

弁護士田中 厚

1 政府の食品安全委員会構想

 政府は、「食品安全行政に関する関係閣僚会議」において、2002年6月11日、「今後の食品安全行政のあり方について」をとりまとめ、そのなかで、食品安全基本法を制定するとともに、食品の安全に関するリスク評価を行う食品安全委員会を新たに内閣府に設置する構想を明らかにした。

2 BSE事件と調査検討委員会最終報告

 2001年9月、欧州で猛威をふるったBSE(いわゆる狂牛病)を発症した国内産の牛が初めて発見され、初期の段階での国の公表の不手際もあって、国産牛の安全性に大きな疑問を抱かせることになり、社会問題となった。
 BSE調査検討委員会の最終報告書は、「BSE問題にかかわるこれまでの行政対応の検証」を踏まえ、「BSE問題にかかわる行政対応の問題点・改善すべき点」として、「生産者優先・消費者保護軽視の行政」、「農林水産省と厚生労働省の連携不足」等を指摘した。そして、「法律と制度の問題及び改革の必要性」として、国民の健康を最優先する行政組織の未整備、科学的なリスク評価を行う組織、消費者保護に責任を持てる組織、情報公開や組織間のリスクコミュニケーションを進める組織がいずれも欠落していると述べて、「時代の変化に対応できる制度改革が緊急の課題である」と提言した。
 政府の今回の「食品安全委員会」の構想は、このような最終報告書を受け、打ち出されたものである。

3 リスク管理権限(規制権限)も有する食品安全庁の必要性

 現在導入が検討されている政府の食品安全委員会構想は、リスク評価部門(食品安全委員会)をリスク管理部門(農水省、厚労省)から組織的に切り離し独立させたという点では評価できるが、仮に食品安全委員会が科学的に適正なリスク評価を行ったとしても、リスク管理部門は従来の農水省、厚労相など産業育成省庁に残されるので、その政策判断により、的確な規制が行われない可能性があり問題である。
 食品安全委員会構想を一歩進めて、食品安全を確保する専門省庁である食品安全庁を設置し、その中にリスク評価部門のみならずリスク管理部門をも取り込んだ上で、産業育成省庁から独立し、さらに、当該専門省庁内で機能的に分離する方法が理想的である。

4 食品安全委員会を設ける場合の留意点

 仮に現在の食品安全委員会構想が実現されるとしても、最低限、以下の問題点を改善しなければ、適正・効果的な運営は期待できない。

(1)独立性確保

 現在の構想では、事務局員には農水・厚労両省からの出向者が含まれ、リスクコミュニケーション担当官に企業のお客様相談室のOBを充て、資金がかかる試験については、予算の関係で農水省や厚労省から依頼・資金を受けて行うことも考えられており、独立性に問題がある。
 適正な業務を制度的に保障するために人的、資金的に、農水省・厚労省や、事業者からの強い独立性確保が必要である。農水・厚労両省からの出向した職員が再び両省に戻ることのないようにするノーリターンルールの確立、委員・事務局には事業者と関係のある者は除く、調査・研究に十分な予算措置を講じる等の措置が必要である。

(2)消費者の参加を保障する制度

 消費者の意見を十分に反映するために、消費者代表や消費者の推薦する専門家を委員に加えたり、消費者が委員会に調査やリスク評価を求める手続を定める等の措置を講じるべきである。

(3)透明性の確保

 食品安全委員会の活動の透明性を確保するために、議事録の遅滞なき公表、意見を採択した場合の少数意見も含めた即時公表、運営委員会の原則公開、消費者代表や関係団体の監視権限、を定めるべきである。

(4)委員会の権限の強化

 リスク管理機関に対する勧告を行うことにとどまらず、事業者に対する一定の規制権限を持つことも検討されるべきである。

(5)情報収集及び情報開示の責務

 事故情報・不具合情報等を事業者や消費者から直接積極的に情報収集し、迅速に必要な情報を開示する責務が規定される必要がある。