建築請負工事と公序良俗無効

2012年7月7日

文責:弁護士脇田 達也

建築基準法違反の請負契約は民事上有効か
(最判平成23年12月16日)

第1 問題の所在

 一般に法律の世界では、行政法規に違反するからといって、直ちに民事上も無効ということにはなりません。行政法規への違反が、公序良俗違反(民法90条)にあたれば、民事上も無効となります。
 では、建築基準法違反の建築をする請負契約をした場合、公序良俗違反により民事上も無効でしょうか。つまり、民事裁判で、建築基準法違反の建物の請負代金を請求したり、逆に、工事の欠陥について債務不履行責任を追及したりできるのでしょうか。また、建築基準法違反が軽微な場合と、重大な場合で違いはあるでしょうか。
 この点、以下に紹介する判例(最判平成23年12月16日。以下、「本件最判」といいます)は、最高裁として初めて、建築基準法違反と公序良俗違反無効について正面から判示したものです。

第2 最判平成23年12月16日の紹介

 本件最判の事案は、注文者も請負人も建築基準法違反であることを承知の上で、床面積を増やすことなどを意図して、建築基準法違反の契約をしたものです。
 本件最判は、まず当初の請負契約について、
「(本件の)計画は、確認済証や検査済証を詐取して違法建物の建築を実現するという、大胆で、極めて悪質なものといわざるを得ない」
「建築されれば、北側斜線制限、日影規制、容積率・建ぺい率制限に違反するといった違法のみならず、耐火構造に関する規制違反や避難通路の幅員制限違反など、居住者や近隣住民の生命、身体等の安全に関わる違法を有する危険な建物となる」
「一たび本件各建物が完成してしまえば、事後的にこれを是正することが相当困難なものも含まれている」
と指摘した上、
「以上の事情に照らすと、本件各建物の建築は著しく反社会性の強い行為であるといわなければならず、これを目的とする本件各契約は、公序良俗に反し、無効であるというべきである。」
としました。
 ただし本件では、当初の契約の施工中に、建築基準法違反が区役所に発覚し、違反の是正を含む追加工事の契約がされています。
 本件最判は、追加工事の契約については、是正を含むので、基本的には当初契約と一体とみることはできず、反社会性が強いわけではないので、公序良俗違反で無効になることはないとしています。

第3 最判平成23年12月16日の評価

 本件最判が、建築基準法違反の悪質性、重大性、是正困難を詳細に述べているとおり、建築基準法違反が重大であれば、公序良俗違反として民事上も無効となります。つまり、請負人は請負代金を請求できず、注文者は債務不履行責任を追求できません。
 これに対し、建築基準法違反が軽微であれば、そのことのみを理由として、請負契約が無効になることはないと考えられます。あとは、債務不履行責任などの問題となります。
 なお、本件最判は、注文者も請負人も建築基準法違反を承知の案件です。これに対し、建築の注文者が建築の素人で、建築基準法違反であることを知らないまま請負人に対して強く要望し、建築基準法違反の契約をしてしまった場合については、別途の考慮が必要となると考えます。
 また、本件最判は、請負代金額の大部分が既に支払われていた案件です。これに対し、請負代金が支払われていない場合は、注文者が、代金を請求されないままで建物を入手することになりかねませんので、結論に影響する可能性があります。

以上