消費者被害にあっているのに取り消せない?! ─任意後見制度のメリット・デメリット─

2016年2月9日

弁護士下枝 歩美

成年後見制度には、補助・保佐・後見からなる法定後見制度とあらかじめ本人が自分の意思で代理人を決めておく任意後見制度の2つがあります。
 任意後見制度は、本人が契約の締結に必要な判断能力を有している間に、将来自己の判断能力が不十分になったときのために、後見事務の内容や後見する人(任意後見人)を公正証書によって決めておく制度です。あらかじめ本人の意思で信頼できる方を任意後見人に選任し、任意後見契約で要望する事項を定めておくことができるというメリットがあります。
 一方、デメリットとしては、任意後見人は、名称は「後見人」ですが、法定後見における「成年後見人」とは根本的に権限が違っていて、取消権がありません。そのため、たとえ本人が訪問販売業者から不必要な品物を売り付けられたとしても、任意後見人は「被後見」であることを理由に売買を取り消すということはできません。任意後見人は(紛争処理についての代理権が与えられている場合には)、クーリング・オフ制度を活用したり、詐欺や錯誤、消費者契約法違反を主張したりして、本人の代理人として業者と交渉を行い、あるいは訴訟で解決を図ることになります。
 本人が一人暮らしを続けるなど消費者被害を受ける可能性がある環境で引き続き生活をされる場合には、取消権のある法定後見の利用についても検討することが必要です。