民事執行法及びハーグ条約実施法の改正

弁護士国府 泰道

 今年5月、表題の2つの法律が改正された。
 その主な内容は次のとおりである。

1 財産開示手続において、違反に対する罰則を強化したこと。債務者以外の第三者(登記所、市町村、金融機関等)から債務者の有する不動産、給与債権、預貯金債権等の情報取得の手続を新設したこと。
2 従来子の引渡は、動産執行の規定によりなされていたのを、子の引渡しのための申立要件、執行官の権限等に関する規定を新設したこと。
3 債務者に対する差押禁止債権の範囲変更の申立ての教示を義務化したこと。
4 その他、暴力団関係者による不動産競売の不許可の制度など。

 これら改正法の施行は、おそらく来年4月1日からになると思われる。
 従来、判決をとっても強制執行が不奏功に終わるということで、裁判すらあきらめる例が多かった。強制執行制度をもっと実効性あるものにしたいというのは多くの弁護士の願いであった。今回の改正により、金融機関などに照会をかけて債務者の財産の有無を調査できることになり、財産調査方法が大きく改善され、より執行が容易になったと思う。その意味で待ち望まれた民事執行法改正である。

 今回最も期待されているのが、第三者からの情報取得制度である。①債務者の不動産情報を法務局から取得できること、②債務者の預貯金・株式などの有価証券の情報を銀行・証券会社・保管振替機構等の金融機関から取得できること、③養育費・婚姻費用・扶養料などの債権に限定されてはいるものの、債務者の勤務先情報などを市町村や年金機構などから取得できること、が定められた。日弁連が求めていたものからすると上記の3項目に限られることは十分ではないかもしれないが、第三者に照会して情報が得られる制度の創設は、画期的であると言える。

 注目してほしいのは、3の項目である。従来、給料の差押は、どんなに給料が少なくても4分の1は差し押さえることができた。そのため、生活保護ぎりぎりの給与しか得ていなかった者は、給料を差し押さえられると保護申請せざるを得なくなっていた。
 他方、国税徴収法は、10万円は差押禁止としているので(同居家族1人につき4万円増)生活保護ぎりぎりの生活をしている場合には、差押えから免れ最低限の生活を維持できた。
 太平洋法律事務所では、2014年2月に民事執行法改正について大阪弁護士会(福原哲晃会長)に意見書を提出して建議していた。その意見のうちの一つが国税徴収法のような最低差押禁止制度を作って低所得者への配慮が必要であるというものであった。この意見は、日弁連消費者問題委員会へも紹介され、その後日弁連意見となっていったという経緯がある(日弁連意見としてまとめるためには、消費者問題委員会所属の弁護士らの熱心な取り組みがあったことはいうまでもない)。
 法制審議会では、日弁連が提案した給与債権の最低差押禁止制度は採用されなかった。理由は、民事執行法153条で差押範囲の変更申立ができるので、低所得者は、これを使って差押えの(一部)取消などを申し立てれば差押から免れることができることになるから、その手続を使えばよいというものであった。しかし差押範囲変更申立はほとんど活用されていないのが実態であったから、日弁連は法改正を求めていたのである。そこで法制審は、差押範囲変更申立がもっと活用されるよう、手続の教示(説明のこと)をさせることにしたというのが今般の法改正である。範囲変更の申立だけで低所得者が差押えを免れることができるのか、今後は、手続教示が効果的に運用されるかを監視していかなければならない。
 このように2014年の太平洋法律事務所の提言は実現はしなかったが、教示の義務化として形を変えてわずかながら実現したので、低所得者保護の制度を少し前進させるきっかけになったのではないかと自負している。