2017年電子商取引準則の改訂と2018年不正競争防止法の改正

弁護士村本 武志

 子供たちは学校で、立法は国会、立法された法律の執行は行政、法律の解釈は裁判所が行うと習う。しかし、法の解釈・適用に関する裁判例が集積されているにも拘わらず、これに反する行政解釈が維持されることがある。その一つに、多くのコンピュータ・プログラムに採用されるアクティベーション(認証)型技術的制限手段を無効化するクラックプログラムの提供が不正競争防止法(「不競法」)の「不正競争」に当たるかという問題がある。
 クラックプログラムは、製品評価目的で実行期間や機能が制限されて無償提供される体験版のOSやアプリケーションプログラムの実行制限を外すものだ。不競法は、製品版プログラムに付された技術的制限手段を回避し実行可能化する「装置」や「プログラム」の提供を「不正競争」に含め刑事罰、民事賠償の対象とする。不競法は、技術的制限手段を、製品プログラムを暗号化する「暗号型」、実行制限解除を「信号」に依存させる「信号型」の二つの仕組みに限定する。また、信号型では、「信号」が製品プログラムと「ともに」送信されるか(信号送信型)、記憶装置への記録を求める(信号記録型)。問題は、この「信号」が何を指すのか、「とともに」要件は、プログラムと信号の「同時」記録を求めるのかという点だ。
 プログラムメーカーは、以前から、アクティベーション方式が不競法上の技術的制限手段に当たると主張してきた。しかし、経産省は、「電子商取引及び情報財取引等に関する準則」上で、一貫してこの主張を容れなかった。その「こころ」は、アクティベーション方式が立法時に想定された技術的制限手段ではないという点にある。そのために、何が「信号」であるのか、信号が製品プログラム「とともに」記録されているかなどについても一切言及はなされない。アクティベーション方式が著作権法上の(技術的「保護」手段)に当たるかについて、それがプログラムの複製を妨げるものではないという理由でこれを否定するものがある。これは、著作権法という法律からの限界だ。これがアクセスコントロールを射程に入れる不競法の「技術的制限手段」に当たるかについては、別の議論が可能となる。
 宇都宮地判平26・12・5を皮切りとする刑事裁判例は、このような経産省の準則解釈とは異なる。アクティベーション方式が不競法の定める技術的制限手段に当たることを前提として、クラックプログラムの提供を不正競争に当たるとする。神戸地判平27・9・8、長崎地判平28・1・12、秋田地判平28・7・1、神戸地判平29・11・17はこれに続く。民事判決でも、大阪地判平28・12・26や、当職が関わった以外の東京地判平30・1・30も同様の判断を示す。
 ある事柄に法が適用されるかの判断では、それが法が想定した事実に含まれるかが重要な指標の一つとなるが、法が想定しない事柄に対する適用は、立法目的を達成するために必要で、法解釈がこれを許せば積極的になされていい。判決は、法解釈に関する「立法」であり、同種事案へ法適用を認める判決が安定的に維持されれば、行政はこれに羈束されるというべきだ。
 アクティベーション方式が不競法の技術的制限手段に当たるかの問題に対する経産省の対応の変化は、2017年6月の「電子商取引及び情報財取引等に関する準則」が改訂時までずれ込む。改訂版でも、アクティベーション方式が技術的制限手段に当たるかは「その内容・技術に応じて、個別具体的に判断される」と指摘するに止まる。その後、信号型技術的制限手段に当たるための要件から、製品プログラム「とともに」信号が記録されることが外されたのは、2018年5月23日の不競法改正までずれこむ(2条8号、法律第33号)。
 改正不競法は、不正に作成されたか不正に入手されたシリアルコードなどの符号提供を不正競争に入れた(2条1項17号)。しかし、単なるクラック情報の提供は不正競争に含まれていない。これについては、商標法違反による対処が考えられ、これを認める刑事判決に宇都宮地栃木支判平26・10・15、宇都宮地判平28・6・24、東京高判平29・3・22などがある。これは、ある意味、不競法の不備を補う便法だ。これに批判的な論考もあり、イタチゴッコはなお続く。