外国債券と外国株式の被害回復 ~最近の2例~

弁護士三木 俊博

高齢者の高金利指向と知識不足

 高齢者層の方々は、長年月の間に貯金貯蓄に励んできており、かなり多額の金融資産を保有しているが、他方で、近時の銀行預金の超低金利化と公的年金の先行き不安から、保有資産の運用に当たって、より良い金利・配当(運用成果)を求める指向性を強めている。
 それに合わせて、証券会社は、伝統的な金融商品(株式・公社債・投資信託など)の品揃えを豊富にするだけでなく、金利や配当が高い(と見える)様々な新種の金融商品を開発・組成して販売活動を強化している。
 販売窓口も、従来の証券会社だけでなく、また、銀行・信用金庫のみならず、郵便局でも、と大きく広がって、ずいぶん身近に感じられるようになってきた。
 しかし、目先に良い金利・配当を提供する金融商品は、高いリスクやコストを内在させているのであり、遅かれ早かれ、そのリスクやコストが顕在化して、実際に損失を蒙ることとならざるを得ない。
 そのときになってはじめて、「話が違う」「これほどまでの損失を蒙る可能性があるとは聞かされていない」「自分に相応しい金融商品ではなかった」「被害に遭った」と気づくに至ると言う次第だ。

外国債券の集中投資

 80歳代前半の高齢女性(ひとり暮らし)。
 それまでは主に我が国の優良株式や国内社債を保有。
 証券会社から利息が良い(高い)として「メキシコ・ペソ建て」の外国銀行の社債の購入勧誘。
 続いて「トルコ・リラ建て」の外国銀行の社債の購入勧誘。社債の発行銀行は一流銀行なので信用度は高いが、建て通貨が「新興国通貨」なので、ペソ・リラと円との為替相場の変動が大きい。為替変動リスクが高い。
 にもかかわらず、証券会社は為替変動リスクの高さを明確にすることなく、利息の高さを強調して売り込んだ。
 前者で6400万円、後者で1700万円、以上合計8100万円。これは預託資産の9割5分にも当たる「集中投資」。
 娘たちが気づいて、証券会社に掛け合い、すべてを売却したところ、1000万円の損失発生(利息通算)。老後資金としては大きい。
 そこで、娘たちの協力の下、私(三木)が担当して、FINMAC(∗)に申立て。1回の審理で3割の弁償を合意。
 もし、民事訴訟に進んでいればより良い解決も考えられたが、時間もかかるし、その間の心労をも考えて、当方も受け入れた。
 泣き寝入りしなかったことでかなりの被害回復を得られたと言える。

(∗) フィンマック:日本証券業協会系の紛争解決機関

外国株式の頻繁売買

 70代前半の高齢女性(ひとり暮らし)。
 自営業の経験あり。その稼得資産と亡夫遺産を基に、以前から、証券会社で我が国の有名株式を複数保有して、その配当金を生活費の一部としていた。
 しかし、それら株式は値下がりして大きな含み損失を抱えていたことから、新任の外務職員が「外国株取引で(前記含み損失を)取り返そう」と働きかけ。
 真面目そうな職員だったので、それに乗ったところ、その証券会社の預託株式・投資信託を全部売却。他の証券会社のものもすべて売却して、合計で2億円。
 それを基に米国株式20銘柄と中国株式14銘柄での売買が始まり、実質わずか1年の間に合計101回、ひと月に8.4回もの頻繁な売買取引。結局、2400万円の損失を計上。
 納得が行かないので、私(三木)が担当して、民事訴訟を提起。5年近くを要したが、1600万円の損害賠償(弁護士費用を含む)を獲得した:過失相殺5割。
 この事例も泣き寝入りしなかったことでかなりの被害回復を得られたと言える。