安全配慮義務の損害賠償請求と弁護士費用

2012年6月26日

文責:弁護士梶 広征

安全配慮義務違反を理由とする損害賠償請求においても弁護士費用が損害として認められるとした判決
(最高裁平成24年2月24日第二小法廷判決)

判旨

 労働者が、使用者の安全配慮義務違反を理由とする債務不履行に基づく損害賠償を請求するため訴えを提起することを余儀なくされ、訴訟追行を弁護士に委任した場合には、その弁護士費用は、事案の難易、請求額、認容された額、その他諸般の事情を斟酌して相当と認められる額の範囲内のものに限り、上記安全配慮義務違反と相当因果関係に立つ損害というべきである。

事案

 工場でプレス作業に従事していたXが、プレス機に両手を挟まれ、両手の親指を除く各四指を失う事故にあったため、安全配慮義務違反を理由に、使用者であるYを相手に約5913万円他の損害賠償を求めた事案。
 第1審(大津地裁彦根支部平成22年5月27日判決)は、弁護士費用340万円を含む約3733万円を認容(過失4割)。Y控訴。X附帯控訴。
 原審(大阪高裁平成23年2月17日判決)は、原判決変更し、約1876万円を認容(過失6割)。「被控訴人が主張する弁護士費用の損害賠償の主張は失当」と判示。X上告。

本判決

 弁護士費用に関する部分につき、破棄差戻し。その余の上告棄却。
 労働者が主張立証すべき事実は、不法行為に基づく損害賠償を請求する場合とほとんど変わるところがない。
 使用者の安全配慮義務違反を理由とする債務不履行に基づく損害賠償請求権は、労働者がこれを訴訟上行使するためには弁護士に委任しなければ十分な訴訟活動をすることが困難な類型に属する請求権である。
 以上を理由として、【判旨】のとおり判示した。

コメント

 安全配慮義務違反は、民法415条の債務不履行責任に根拠があり、本来であれば、債務者(安全配慮義務を負っている使用者など)が、その債務を履行したことを主張・立証すべきとも考えられるところ、最高裁は、「(安全配慮)義務の内容を特定し、かつ、義務違反に該当する事実を主張・立証する責任は、義務違反を主張する原告にある」(最高裁昭和56年2月16日判決・民集35巻1号56頁)として、債権者(被用者)側に義務違反の主張立証責任を負わせることとした。
 その結果、原告による立証の内容や難易の観点からは、安全配慮義務違反(民法415条)に基づく場合と、不法行為(民法709条)に基づく場合とで、何ら立証事実や困難さが変わるものではないのであるから、不法行為に基づく場合と同様に、安全配慮義務違反に基づく場合において弁護士費用の請求が認められるとした本件最高裁判決は、妥当なものである。