スローリーディングのすすめ -仕組債錯誤無効判決を読む-

弁護士中嶋 弘

 書籍やテレビで紹介される「速読」では30分で1冊を読むというような信じられない人が出てきます。速読できる人がうらやましいと思っていましたが、私の場合、速読どころか何度も読まないと頭に入らないという状態でした。
 そんなときいい本に出会いました。平野啓一郎氏の「本の読み方 スローリーディングの実践」(PHP新書)です。ひとことでまとめると、速読を捨て、書き手の立場にたってどうしてこんなことが書いてあるのかを考えて読む、そうすることでより深く理解することができるというわけです。
 ところで弁護士は紛争を裁判に持ち込んで判決をもらうのですが、判決には裁判所がなぜそのように判断したかが書かれています。そこで最近はできるだけ判決文をスローリーディングするようにしています。
 私が担当した為替連動型仕組債の訴訟で、売買契約の錯誤無効が認められ投資家が勝訴した大阪地裁平成22年3月30日判決を2010年夏号のニュースレターで紹介しました。錯誤無効の判断は大阪高裁平成22年10月12日判決で維持され確定しました。そこで両判決をゆっくり読んでご紹介します。

 仕組債の商品性について、証券会社が「極めてシンプル」で「富裕層にとってはハイリターンの魅力ある商品である」と主張したのに対し、1審判決は「円高傾向が続く場合には本件仕組債は最長30年間償還されず(中略)資金を長期間拘束されることに比して十分な利回りを得ることができない」「30年後の償還額は外貨で算出されることから、為替による元本毀損のリスクがある」「そのような見通しの下で本件仕組債を途中売却する場合には、期待収益によって算出される理論値より更に買い叩かれるリスクも存する」とし、このような「重大なリスク」があるから投資家が過去に投資したことのある金融商品と比較してリスクを説明すべきであったとしました。そして仮に証券会社が「30年持ちきりになる」ことに言及したとしても途中売却の場合に元本を毀損するリスクを含んでいることまで理解させるに足る説明であったとは考え難いとしました。控訴審では、証券会社が仕組債の取引条件等概括的に説明すれば足りると主張したのに対して、2審判決は「通常の社債とは異なり、市場での売却が著しく困難であるため、購入者は償還期限までの為替相場及び金利相場の変動状況、さらに、発行会社(中略)の存続可能性を見越して、本件仕組債に組み込まれた償還条件や利子の条件が有利であるか否かの判断を要することになる」とし、そのような判断が一般投資家には「著しく困難である」としました。超長期投資においては金利を得られないことが重大な損失になることを正面から認めたところと、流動性がないために満期までの市場リスクと信用リスクを判断することを要するがそのような判断をすることは困難であると認めたところに意義があります。
 そして勧誘に使われた提案書について、1審判決同様、2審判決でも「一読するだけでは通常の個人投資家が、正確に理解できるとはいえない」とされました。
 また顧客が円安の相場観を持っていたという証券会社の主張に対して、2審判決は円安予想の顧客に対して、逆に円高に推移した場合のリスクを理解させるに足りる説明をしていないと認定しています。顧客が円安の相場観を持っていたという証券会社の主張に対抗する際、参考になります。
 こうして2審判決も、投資家が権利内容について錯誤に陥り、そのリスクについて理解しないままであったとして錯誤無効を認めました。
 これからも仕組債に関する訴訟は続きますので、スローリーディングによってこれまでの勝訴判決を活用しましょう。