裁判員制度について

1 はじめに

 「裁判員の参加する刑事裁判に関する法律」が平成16年5月に成立しました。この法律は1943年にわが国の陪審法が施行を停止されてから実に約60年を経て成立したもので、国民の司法参加の実現に向けて裁判員制度がいよいよ平成21年5月までに開始することになります。

2 裁判員制度とは

 裁判員制度は、国民が裁判員として刑事裁判に参加し、被告人が有罪か無罪かの事実認定や法令の適用、有罪の場合の刑の量定を裁判官とともに決める制度です。国民が裁判に参加することによって、健全な社会常識を裁判の内容に反映させ、その結果、国民の司法に対する理解と信頼を深めることを目指しています。裁判員が参加する対象となるのは、刑事重大事件(例えば、殺人、強盗致死傷、傷害致死、危険運転致死、現住建造物等放火、身代金目的誘拐、保護責任者遺棄致死など)であり、平成15年であればその対象事件は全国で3,089件でした。

3 裁判員の選任

 裁判員は選挙人名簿から無作為抽出で選ばれます。まず、向こう1年間の裁判員候補者を選び、さらにその中から対象となる具体的事件を担当する裁判員候補者が選ばれます。事件毎の裁判員候補者は裁判所へ呼び出され、裁判員選任手続が行われます。平成15年の対象事件数で試算すると、 1年間に選挙人名簿の中から約330人~660人に1人が裁判所から裁判員候補者として呼び出されることになります。裁判員選任手続では、出頭した裁判員候補者が裁判員となる条件を満たしているかどうかを調べ、欠格事由、就職禁止事由、事件に関連する不適格事由などがある人や理由があって辞退が認められた人は候補者から除外されます。また、検察官や弁護人は一定の人数の候補者を理由を示さずに除外することができます。そして、除外されなかった候補者から裁判員が選任されることになります。

4 裁判員の仕事

 裁判員は、裁判官と一緒に公判期日に出頭します。合議体は原則として裁判官3人、裁判員6人で構成され、公判期日はできる限り連日開かれます。裁判員は、公判審理において証人を尋問し、被告人の供述を求めることができ、被告人が有罪か無罪かの判断と刑の量定について判断する権限があります。法令の解釈、訴訟手続については、裁判官のみが判断します。公判審理が終了後、裁判官とともに被告人の有罪、無罪の決定と有罪の場合には刑の量定を評議します。評議は全員一致を目指しますが、全員一致に至らない場合には多数決による評決を行います。ただし、その多数意見には、裁判官、裁判員のそれぞれ1人以上の賛成が必要とされています。そして、判決内容が決まると、裁判員の立会のもと法廷で裁判長が判決の宣告をし、裁判員の仕事は判決の宣告により終了します。

5 裁判員制度実施までの課題

 裁判員制度は、国民の司法参加を実現し、ひいてはわが国の民主主義をより実質化する歴史的な意義を有するものです。しかし、弁護士会はこの制度が実施されるまでには、裁判員の主体的・実質的関与を可能にするとともに、被告人の防御権を保障した刑事手続の確立が必要であると考えています。そのためには、新たに創設された証拠開示制度や被疑者段階からの国選弁護制度などが適切に運用されることに加え、密室で行われている取調べ過程の可視化(録画、録音)や「人質司法」と言われるような身体拘束制度の抜本的改革などが不可欠となります。