携帯電話販売大手の横暴

弁護士中嶋 弘

突然違約金を請求された

 A社は街角にある小さな携帯電話小売店であり、N社から携帯電話を仕入れて消費者に販売していた。N社は資本金30億円以上、従業員400名以上の大企業だ。
 ある日、突然N社から訴状が届いた。N社は、A社が「不正」を働いたから違約金を払えと請求してきたのである。A社にとっては全く身に覚えのないことであった。A社代表者は毎日額に汗して真面目に働いているのに、突然「不正」呼ばわりされたことは到底納得できないと思った。また、同じような請求を受けた同業者の多くが、大企業を相手に裁判をたたかうことをあきらめてしまうのではないか、同じような言いがかりを付けられた仲間のためにも泣き寝入りはできないとの思いから、裁判で不正がないことを明らかにすることにした。

携帯電話業界の特異な流通形態

 この業界独特の流通形態と収益構造が本件の背景にある。メーカーから卸売業者、小売店、消費者と商品が流通する場合、各取引段階で利益が上乗せされ、価格が上がっていくのが通常であるが、携帯電話の場合は、端末の値段を超える販促金が与えられるため、仕入れ値よりも安く販売するのである(N社の損益計算書でも商品売上高は商品売上原価より小さい)。
 このようなシステムが可能になるのは第1種電気通信事業者(いわゆるキャリア)が契約者を増やしさえすれば高額の通話料で儲かるので、これを販売店にバックマージンとして還元することができるからである。
 このように、販促金の原資が通話料であることから、消費者が短期間の内に解約してしまうとキャリアは目的を達することができない。そこで、キャリアと販売店、販売店と小売店の間には6ヶ月以内に解約した場合は違約金として販促金を返還しなければならないとの契約がなされている。さらに販促金目当ての架空契約は不正契約として違約金の対象とされている。本件でN社は、A社がこの架空契約という「不正」を働いたと言いがかりを付けたのであった。

完全な勝利

 確かに、小売店の中には不正契約を行う者もあるようだが、A社は違った。N社が「不正」と指摘した契約においても通話がなされており、「架空契約」「不正」というのは言いがかりに他ならなかった。N社は何ら調査をせず、ただキャリアから「不正」を理由に違約金を請求されたため、それをA社に転嫁しようとしただけであることが明らかとなった。このような訴訟は不当訴訟である。A社は逆に損害賠償を請求しようとも考えたが、日々の事業活動に専念したいとの配慮から和解に応じた。和解の内容は、N社がA社に対する請求を放棄し、A社が不正を行っていなかったことを認め、以後A社を誹謗中傷しないと約束する、というものであった。
 ところで、N社のどこに問題があったのであろうか。N社は本来、キャリアから違約金を請求された際、キャリアに不正の根拠を示すよう要求し、自らも厳正に調査した上「不正契約はない」と主張して違約金の支払を拒むべきであった。少なくとも、N社は自らの経営判断でキャリアの不当な要求に屈したのであれば、それを罪もない小売店に転嫁しようとするべきではなかった。N社は、本件に現れた、強い者に迎合し、罪もない弱い者に負担を押し付けようとする企業姿勢を改めなければなるまい。
 逆に、A社のような小さな事業者が、大企業の横暴に屈することなく、正しいことを主張し通したことは立派であった。N社の横暴に苦しめられている同種事案の被害者がいたとすれば、A社の頑張りが励みになるであろう。