抵当権者に対し,登記なしに時効取得を対抗できるとされた事例

2012年8月7日

文責:弁護士向来 俊彦

抵当権者に対し,登記なしに時効取得を対抗できるとされた事例
最高裁平成24年3月16日判決(判例時報2149号68頁)

1 要旨

 不動産の取得時効の完成後,所有権移転登記がされることのないまま,第三者が原所有者から抵当権の設定を受けて抵当権設定登記を了した場合において,上記不動産の時効取得者である占有者が,その後引き続き時効取得に必要な期間占有を継続したときは,上記占有者が上記抵当権の存在を容認していたなど抵当権の消滅を妨げる特段の事情がない限り,上記占有者は,上記不動産を時効取得し,その結果,上記抵当権は消滅すると解するのが相当である。

2 前提(時効と登記)

 時効と登記に関する最高裁判決は,以下のような流れになっている(判例時報2105号10頁参照)。

  • Aの土地をBが時効取得した場合,BがAに時効を主張するのに登記は不要である(大判大7年3月2日)。
  • 時効完成前にAから土地を譲り受けたCとの関係でも,登記は不要である(最判昭41年11月22日)。Cの登記が時効完成後にされた場合であっても,同様である(最判昭42年7月21日)。
  • 時効完成後にAから土地を譲り受けたDとの関係では,A→B,A→Dの二重譲渡がされたのと同様の関係になり,登記が必要である(最判昭33年8月28日)。
  • Bが,占有開始時点をずらして,時効完成の時期を早めたり遅らせたりすることはできない。時効期間は,時効の基礎たる事実の開始された時を起算点として計算すべきである(最判昭35年7月27日)。
  • しかし,Bは,Dの登記後,さらに取得時効に必要な期間占有すれば,Dに対し,登記なしに時効取得を対抗できる(最判昭36年7月20日)。

3 問題の所在

 本件においては,上記の(5)について,上記Dが抵当権者であった場合にも,上記BはDに対し登記なしに時効取得を対抗できるかが問題となる。
 本判決は,Bが抵当権の存在を容認していたなど抵当権の消滅を妨げる特段の事情がない限り,BはDに対し登記なしに時効を対抗できるとした。要するに,上記(5)の判例は,Dが抵当権者の場合であってもあてはまると判断した。

4 古田裁判官の補足意見

 古田裁判官の補足意見を読むと,問題の所在がより明確になる。
 すなわち,古田裁判官は,上記Dが抵当権者であった場合と所有権者であった場合とで大きく事情が異なるとする。「抵当権の設定を受けた場合は占有者の所有権が失われることにならないところ,抵当権は債務不履行がないにもかかわらず実行することはできないし,また占有権原や利用権原を伴うものではないから,これらの権原に基づいて占有を排除することもできないのであって,所有権のように権利の消滅を防止する手段が当然には認められない。この点,譲渡を受けた場合と大きく相違する点であって・・・」
 そのため,古田裁判官は,所有権者の場合と異なり,抵当権者には抵当権の消滅を防止する手段が認められるべきであるとし,法廷意見もそのことを前提にしているというが,具体的な方法については言及されていない。

5 注意を要する判例

 最判昭36年7月20日及び本判決に対し,最判平成15年10月31日(判例時報1846号7頁)は,次のように判示している。
 「被上告人は,時効の援用により,占有開始時の昭和37年2月17日にさかのぼって本件土地を原始取得し,その旨の登記を有している。被上告人は,上記時効の援用により確定的に本件土地の所有権を取得したのであるから,このような場合に,起算点を後の時点にずらせて,再度,取得時効の完成を主張し,これを援用することはできないものというべきである。」
 上記の事例でいえば,占有者のBがいったん時効を援用して確定的に所有権を取得した以上,その後に現れた第三者Dとの関係は対抗関係になるのであって,その後もBが占有を続け,再び時効期間を経過したとしても,登記なしにDに時効取得を対抗することはできないとされている。
 最判昭和36年の事案や本判決は,時効取得者(B)が,いまだ原所有者に対する時効の援用をせず,もとより原所有者からの所有権移転登記も未了で,所有権を確定的に取得しているとはいえない状況であったのに対し,最判平成15年の事案は,時効取得者がいったん時効を援用し,確定的に所有権を取得している点で事情が異なる。

6 考察

(1)抵当権者の立場

 不動産担保は長期間にわたり設定されることが多いところ,抵当権者の立場からすると,抵当権の被担保債権が消滅時効にかからないように管理することはもとより,抵当権の実効性を維持するためには,担保不動産が占有者に時効取得されないように,抵当権設定時に当該不動産を誰が占有しているのかを把握し,場合によっては時効中断の措置を講じる必要がある。

(2)占有者の立場

 占有者の立場からすれば,自己が占有している土地につき,他人名義であること(登記名義が他人であること)に気づいたときは,占有開始時を確かめて,時効期間が経過しているかどうかを確認したうえで,時効が完成していれば取得時効を援用し,その直後には登記を済ませておく必要がある。時効を援用したのに所有権移転登記をせずに放置していると,最判平成15年によれば,その後に現れた第三者には対抗できないことになる。なお,取得時効には10年,20年の占有が必要であるから,具体的に時効の起算点を把握することが難しいケースが多いのではないかと思われる。

以上