地震・台風などの自然災害と隣人間の法律問題

2018年11月12日

弁護士国府 泰道

 京阪神では、今年2回の大型の自然災害に見舞われました。
 6月21日の大阪北部地震、9月4日の台風21号です。
 10月13日の当事務所のシニアライフセミナーでも、これら災害に関わる法律問題が参加者の皆さまから話題になりました。
 大阪弁護士会は、これらの災害に関する無料法律相談を実施しています。
  http://www.osakaben.or.jp/temporary/20180622.php

 ここでは、セミナーでの議論を踏まえて、典型的な例について、少し法的なコメントをしておきます。

■事例1
 大阪北部地震では、賃貸物件で、耐震性が不足している、この機会に家主が立て直したいと言っているが、耐震性不足は明け渡しを求める正当事由になるか。
■事例2
 台風21号では、隣家Aの瓦が飛んできて、B宅の自動車に傷がついたが、修繕費を請求できるか。
 こんな問題が多数起きているようです。

 ところで、古い話になりますが、1995年阪神大震災の時に、震災で借家が損壊した場合に借家権は消滅するかということで議論になり、民法理論で目的物が消滅した以上借家権は消滅すると答えようとして、罹災都市借地借家法という民法理論を修正した特別法がある、それによると、借家権は消滅しないと聞いて、慌てて弁護士たちが集まって緊急勉強会をやったことがあります。

 今回の災害でも、法的責任についての、基本的な考え方を紹介しておきます。

 事例1については、耐震性が不足するというだけでは、建物立替のために明け渡しを求める正当事由にはならない、相当額の立退料によって補完することにより正当事由が満たされるというのが、従来の裁判例の考え方であす。立退料により双方にの歩み寄りがなされて紛争解決するというものです。実際には、ではどの程度の立退料が相当かについて、議論を残すことになりますが、転居する場合の引越費用だけでなく、家賃の高いところへ移転せざるを得なくなる場合の差額賃料なども考慮されることになると思われます。
 賃借人が建物で店舗を構えているような場合には営業補償なども考慮する必要が出てくるので、相当の立退料が必要になることもあると思います。

 事例2については、A宅からすれば自然災害による不可抗力によるもので賠償責任を負わないという抗弁が予想されるところです。たしかに不可抗力についてまで責任を負わないというのが民法の原則です。ただ民法では土地工作物責任に関する規定があって、土地の工作物(建物など)に瑕疵があった場合には、過失の有無にかかわらず責任を負うべきだとされています。したがって、瓦が飛んだのが建物の瑕疵によるものかどうかが問題となりそうです。20年に1度の台風だから仕方ないと言えるのか、瓦の飛んでいない家も多いのだから、それなりの備えをしていない瑕疵があったことになるのか。「瑕疵の有無」という「程度問題」になり難しい判断が迫られます。どちらの言い分にもそれなりの理由があるからです。
 したがって、お互いに、自分にとって有利な論法を振りかざすだけでなく、お互いの論法を理解しつつ、紛争解決に向けた歩み寄りや相互の立場の理解が必要だと思います。また、保険などを有効に活用しつつ解決を図ることも必要です。

 民法は、隣人間や私人間の利益を調整する法律ですので、簡単に割り切れるものではなく、具体的な事案、事情も考慮して、裁判官も悩みながら判決することになります。折角このコラムを読んで戴いても、一刀両断に答えが出ないことにもどかしい思いをされた方には申し訳ありません。しかし、これが現実です。